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スを作り易い。これが、60年代と今日との違いだと思います。しかし、それにしましても、私どものプロジェクトがそのルーツをクズネッツ教授のアカデミックな伝統に負っているのはたしかであります。彼は、国民所得を取り扱ったいくつかの優れた研究成果を私たちに残してくれました。

第2に指摘したいことは、ケンブリッジ大学のB・R・ミッチェル(B.R.Mitchell)教授が、非常に包括的な、色々の種類の経済統計を盛りこんだ非常に分厚い統計書4巻を刊行されたことであります。これは、アフリカを含む世界中のデータであります。アッシュスタットのプロジェクトは、ミッチェル教授の意図されたものを、もう一歩進めたいと思っております。つまり私どもは、基礎的なデータソースの整序を進め、その結果基礎的なデータが概ね同じ統計的なコンセプトのもとに構築され、統一され、かつ標準化されたフォーマットに添ったものとなるように整理したいのであります。前の報告者やディスカッサントがいわれたように、基礎的なデータの標準化を進める試みは確かに非常に難しいものであります。にもかかわらず、我々が必要としているのは、何らかの標準に基づいて、理想的な状況から我々のデータがどの程度離れているかを判断できるようにすることであります。

第3に、アッシュスタットのプロジェクトは、私が数量経済史と呼ぶ知的な環境のなかで息づいているものであります。米国においては、「クリオメトリックス」(cliometrics)あるいは「エコノメトリック・ヒストリー」(econometric history)とも呼ばれております。このこととの関連で私がすぐに思い出すのは、非常に有名な理論経済学者である宇澤弘文教授のコメントで、それによれば「エコノメトリック・ヒストリー」は貧しい経済学と悪い歴史学との不幸な結婚である、というのであります。たしかにそういう側面もあると思います。しかし、それにもかかわらず、私は数量経済史的な立場を取りたいと考えます。社会科学的な努力は、どこかで確固としたデータと直面し、統計のなかに含まれている問題をきちんと捕捉しなくてはいけないと思うからであります。

さて、参加者の皆様にはお手もとにあります資料の最後の方に付けられているいくつかの図をご覧頂きたいと思います。そこには、我々が収集あるいは作成したデータに基づいて、7つの図を用意いたしました。これらの図を皆さんにご覧いただきいかに興味をそそる結果がこのプロジェクトから出てくるか、その感触を体験していただきたいのであります。

もっとも、この作業はまだ進行中でありますので、これから申し上げますことは必ずしも体系的ではありませんし、完成したものでもありません。

まず図1(305頁Figure1)ですが、これは、中国本土の製造工業の生産高の歴史統計を表わしたたものでありまして、1910年代、20年代、30年代の状況であります。よく知られているように、この国のこの時期について精度の高いデータを作成することは非常に難しいのですが、この図に示されている長い方の時系列は、経済史学者によっていまのところ最良の情報と認められている時系列の統計であります。図中のもう一つの系列は、ある若い中国人の学者が、当時中国政府が編さんしたもののその後研究者によって無視されていた統計年報に新しい価値を発見しようとして試算し

 

 

 

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