様な時期には画期的な向精神病薬が導入されており、それによって患者の治療、外来維持の可能性が飛躍的に進歩したことであるが、そのことが収容化への流れを押し戻すことにはならなかった。実は1960年前後に、治療薬の使用を前提として精神衛生法を改正し、地域医療を促進しようとする動きもあったのだが、患者による駐日アメリカ大使のライシャワー氏の襲撃事件があり、その後の大勢が社会防衛的なものになってしまったという巡り合わせもある。
加えて、代表的な精神疾患である精神分裂病という病名自体のもたらす誤解と言うこともある。近代の社会は個人の自立した責任というものを原則としているのに対し、この病名は何か、精神の統一が無くなっていて、自立した医師や責任を負うことができないかのような印象を与えてしまう。さらにいくつかの犯罪事件で、犯行時の(多くは治療不十分な時期の)急性期の精神症状によって責任能力を不問とされてしまうことも、患者の実態に疎い人々には、それが患者の常態であるかのような誤解を与えてしまう。
そこで本調査では、精神分裂病についての種々のイメージを調べるだけではなく、そのイメージが回答者のどのような社会的な背景と結びついているのかを考察することによって、現在の社会における精神分裂病のイメージの形成過程の一端を明らかにしようと試みた。
1) 精神分裂病という病名へのイメージ(問12)
本調査における設問では、この項目への回答は、病名そのものから受けるイメージだけではなく、この疾患にまつわる様々な社会的背景や知識についてのイメージが重なっているものと思われる。