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第2日

9月12日(金)

災害ボランティアの課題と展望

(財)都市防災研究所

主任研究員 重 川 希志依

 

1. 災害時のボランティアが忘れてはならないこと

阪神・淡路大震災で全国からたくさんのボランティアが被災地に駆けつけました。この活動をきっかけとして「ボランティア元年」という言葉まで生まれました。

そして、今年の1月に発生した日本海重油流出災害現場にも、多くのボランティアが集結し、油の回収作業に従事しました。

日本でもようやく、災害時のボランティア活動が定着しつつあるような感があります。特に、高校生や大学生などの若い力が、ボランティアの担い手として大きな役割を果たしています。

ところで、災害時のボランティア活動で最も重要なことは、一言で言うと「被災地に迷惑をかけないこと」、そして「被災者の自立再建を妨げないこと」です。ところが、日常的なボランティア活動がまだまだ活発でない日本では、ボランティアに不慣れな人達も多く、災害現場で少なからぬ問題を引き起こしてしまうことがあるのです。

阪神・淡路大震災でボランティアを志した人たちの多くは、テレビに映し出された被災地の惨状を見て、「自分達が何とかしなければ」という熱い思いにかりたてられ、交通網が途絶した中、重い荷物を背負って阪神を目指しました。

同じ頃、被災地の行政職員は、ズタズタに切り裂かれ傷ついた街の中で、まさに孤立無援、いつ果てるか見当もつかぬ、先の見えない災害対策に忙殺されていました。そんな時に、頼もしい若者達が駆けつけてくれたことは、どんなに強い心の支えになったことでしょう。

しかしその一方で、被災地にとって希望の灯であるはずのボランティアを受け入れるに当たっては、少なからぬ混乱と摩擦があちらこちらで起こりました。

神戸市のある区役所の職員が、当時の様子を次のように話しています。地震の翌日から、リュックを背負った若者が、続々と区役所に押し寄せてきました。まだあちこちで火の手が上がり、大勢の人が生き埋めになっていた頃のことです。「私、ボランティアに来ました。どこへ行ったら良いでしょう、何をしたら良いでしょう。」と、あの混乱のさ中に区役所の人に問いかけます。最初のうちはせっかく来てくれたのだからと答えていましたが、途切れることのないボランティアの問い合わせに全く仕事が手につかなくなり、とうとう「いま区役所がどんな状況か見たらわかるだろう、何をしたら良いかは被災地を見て自分達で考えてくれ。」と怒鳴りました。

結果的にはこのことが良かったようで、その後、ボランティアたちは「何をすべきかを自分で考える」ことを始めたのです。

「何かしてあげたい」という善意だけで混乱する被災地に駆けつけることが、場合によっては被災地の災害対策の邪魔になることもあるということを、ボランティア活動を志す人たちは忘れてはなりません。

 

 

 

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