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もし、中国を西欧のマスコミが描くような悪魔に仕立てる政策に対して注意が払われなければ、20世紀における第2の冷戦の勃発を招くことになり、この場合の冷戦は米国対中国の図式であろう。今日、誰かが文明の衝突として描いている対立は、アジア太平洋にとって悲劇であり、何としても避けなければならない。文明の衝突論は知的見地からしても怪しげで、いわば災厄への処方である。この対立の戦場はアジアであって欧州ではなかろう。もしそのようなことが起これば、アジアの国どうしが戦うこととなり、アジアにおける平和の構造を崩壊へと導き、この地域の経済の原動力の息の根を止めることになりかねない。この文明の衝突論は、アジアの団結を分断する荒っぽい考え方である。アジアの諸国が他のアジアの諸国との戦争に追いこまれ、あるいはアジアが第2次冷戦に突入すれば、アジアは荒廃に追いこまれるであろう。我々は歴史を繰返させてはならず、自らの愚行から自らを守らなければならない。

こうした懸念は、その前提となるべき強国の協力がない脆弱な多国間安全保障の枠組、そして冷戦が終了しても消えなかったこの地域に残る遺恨といった背景をもとに理解されなければならない。アジア太平洋地域における戦略関係を変化させた地域的戦略環境における顕著な特徴は、新しい海洋国の台頭(例えば中国及び日本)、米国の軍事力の減少、アジア太平洋地域における防衛予算の増大--これが新しい攻撃兵器の導入さらに絶え間ない海上における紛争を招来した--である。

非軍事的な衝突が増加したことは、この地域の安全保障関係を複雑なものにしている。自らのルーツを求めて競り合うナショナリズムはまた悪夢にもなりうる。ボスニアとセルビアを見れば、我々は更なるカンボジアの悲劇を避けなければならないことが判る。そして、ボスニアやセルビアの亡霊を我々の周りをうろつかせてはならない。

冷戦の生き残り勢力によって猛スピードで動かされていた世界的なそして経済的関係における転換に引続いて大国を巻きこんだ紛争の危険性は、現在、あるいは近い将来、今世紀を通じて最も低い状況にある。冷戦時代の軍事同盟の形態もまた本質的に変化したため、将来における新しい同盟がもたらす成果を正確に予言することは誰にとっても難しくなった。

 

○海上における紛争

次のおよそ5年以内に、烈度の低い軍事衝突が海上で生起しそうである。その範囲は未解決のままの主張の重複、東南アジア水域、竹島周辺、尖閣諸島/釣魚島、千島列島/北

 

 

 

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