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そうするのであると思うなら、直ちに船を止めるであろう。この様な理由は海賊問題がどうして増加しているかを良く語っている。しかし、金銭的要因がこれほど明白ではない場合もある。

 

例えば、この20年はかって無いほど商船に雇われる乗組員の数に減少が見られている。 技術の進歩により、船会社は今までよりはるかに少ない乗組員で足りるようになった。 かつては、平均規模の船に50人の乗組員を雇うのは珍しくなかった。最近はこの半数以下である。海賊にとってはそれだけ仕事が容易になったわけだ。

 

明白とは言えないが、もう1つの要因に冷戦後ということがある。いわゆる、“分割化された平和”はアメリカ、ロシア、イギリスの海軍の大幅縮減をもたらした。例えば、過去10年に東南アジアにはロシア海軍の存在は事実上ゼロとなり、一方でアメリカとイギリスの海軍は50%までの規模で縮小された。

 

こうして軍力が不在になったことにより、東南アジア地域での海賊行為への抑止力が縮まった。一年一年の被害件数の増加は世界の海軍縮小による結果であるとみて良い。海賊行為による略奪件数の劇的な増加を理解するには第4章の数字を見ればよくわかる。加えてアナ シエラ号の例から、略奪行為は大胆な行為であるだけでなく、その犯行に対して咎めがないと知っての行動である事がわかる。治安維持に有効な方法が減少したのは東南アジアに限った事ではなく、世界各地についても同じことが言える。

 

国際社会は治安が脅かされている地域の国々が自力で大国が守り切れないキャップを埋めてくれるのを願っていた。不幸にして経済未開発国が抱える負債が意味するものは、不十分な経済状態は海上を適当に行き来して姿を見せる事によって、海賊抑止に役立てる事さえできないほどなのだ。

 

この様な経済要因は海賊側に次々に心理効果をもたらす。海賊が自分達の置かれた立場を考える時、次に計画する略奪はそれを受ける側からの抵抗にあう事もないだろうし、犯行のすぐ後に公海上で厳しい追跡にあう恐れもほとんどないだろうと結論を下すのだ。

 

第2次世界大戦後にすぐに起こった政治上の変遷は、残念だがこうした海賊防止には悪い効果をもたらした。大戦前にはオランダ、ポルトガル、ベルギー、フランス、イギリス、アメリカといった国々が世界中の国々とつながっていた。これらは往々にして植民地としてのつながりであったが、それにしてもこうしたつながりは世界各地に安定効果をもたらしていた。政治的な安定と共に平和というおまけまでついていた。平和時には海賊行為のような問題に取り組むために、有限のリソースが分割され得るのだ。

 

 

 

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