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てきた人々がいる事がわかれば、海賊文化というものがどの様にして発展してきたかを知る上で納得がいくであろう。

 

加えて、発展途上国の人々はもはや貧困状態が続くのを良しとしない。人々は物を所有したがっている。もし欲しい物が合法的に手に入らないのなら、欲しい物を盗んででも所有したがる人もいるのだ。あまり価値の無いような物がこうした海賊にとっては価値があるという事実もこれまで船舶が受けてきた多くの略奪例によって証明される。これら略奪事件では、船舶の装備品や乗組員個人の所有物が紛失しているのが分かってから発見される事が多く、紛失物にはラジオ、電線、救命用筏、時にはペンキの缶などが含まれていたりする。

 

このタイプの盗人はいつも暴力を行使するとは限らない。見つからない様にと願いつつ、暗闇を狙って船に忍び込む。そして一旦船に忍びこんでからは船中を漁って価値のありそうな品々を盗むのである。この様な犯罪は港に停泊中の時も海上でも起き得る。暴力は単に威嚇にすぎないか、逃げ道を塞がれた時にのみに行使される。海賊が比較的少数の盗品のためにこの様な危険をおかし、捕まればひどく罰せられるという事実は、彼らが経済的にいかに切羽詰まった状態にあるかを示している。

 

もう一つの要因は、多くの略奪が起きても必ずしもその筋に届け出がなされていないという事だ。もし船長が被害を届け出れば、その筋が証人の証言を取り、船の出港を何日か遅らせるような調査を行う事を覚悟しなければならない。比較的に小さな個人の被害額への影響は、貸し切り船舶の1日分の損失の元に軽滅されてしまう。こういう事情があるから、被害があってもほとんど届け出がないのは驚きではない。

 

海賊は日和見主義的なところがあり、自分達の置かれた事情如何によって行動を起こすものなので、海賊行為を働く人々の経済状態を向上させる事によって略奪行件数は減少するのではないかと言う意見が出る。 この程度の海賊行為ならそれも議論の余地がある。 しかし、この論文の7章で詳しく述べられるアナ シエラ号のような船舶の乗っ取りによる被害額は非常に多額なものである。この事件のような組織化された海賊が得る多大な収益に比べると、地域的な経済の向上を海賊防止策として持ち出すなど、ほとんど無意味に近いのだ。

 

船舶の乗っ取りによってでも海賊が手にしようとする不法な収益の増加は、海賊による犯罪をもっと掻き立てるもう一つの金銭的な要因である。加えて技術の進歩は実際に、小さな漁船であれ大きな漁船であれどんな船舶も、転売の可能な高価な航行用あるいは通信用装備を持つことを意味する。懐が豊かになった海賊の一団は、より多くの武器や、略奪に使う大きな船を購入するのである。彼らの犠牲となる者達を欺くために、本物の海軍を装った船と乗組員を抱えている例もある。もし海賊に狙われた船舶の船長が、彼の船を止める事を要求する船が善意から

 

 

 

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