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国連海洋法条約は、また、国際海峡における沿岸国の国際法上の責任についても規定している。ただし、国際海峡は一国または複数の国家の領海内に位置するのであり、当該主権国家のみが、それぞれの領海において管轄権を行使できるのである。

 

アジア太平洋地域における海賊行為の発生という問題に現実的に対応するためには、国連海洋法条約の(公海についての)限定的かつ法的な定義によるのではなく、むしろ、「1992年の国際海事事務局の海賊に関する特別報告」で規定されたような包括的な定義による必要がある。特別報告の定義とは、すなわち、

「海賊とは、略奪を目的とし、かつ、そのために武力を行使する可能性をもって、あらゆる船舶に乱入する行為」

である。このより包括的な定義が、領海内の船舶はもちろん、停泊中の船舶についても適用されることは明らかである。

 

これらの定義、すなわち法的定義と現実的な定義の両方を理解することが、重要である。なぜなら、海賊行為が発生する地域の現実がどのようなものであるにせよ、海賊に対処する国家間の将来における協力は、海洋に関する法的定義の規制を受けるからである。

アジア太平洋地域には、以下の法的定義がさまざまな形で関係している。

 

●マラッカ海峡及びシンガポール海峡の「国際海峡」の中又はその近傍でのほとんどすべての海賊行為は、マレーシア、インドネシア、シンガポールという3カ国のどれか一つの国家領域(すなわち領海又は群島水域)内で発生する。

●広大なインドネシア群島水域内での海賊行為は、インドネシアの国家領域内である。

●国家領域について係争中の地域、特に広大な南シナ海は、海賊行為に関する裁判管轄権の帰属を確定することが、さらに複雑になる。

 

上記の法的定義及び地理的な事実は、法執行官は他国の国家領域内で自国の法を施行できないという、世界的に受け入れられている国際法を意味している。

したがって、海賊行為が発生した地点がどこであれ、ある国家の軍艦及び海上警察は、海賊を取り締まるため、あるいは、海賊行為を犯した者を逮捕する目的で、他国の内水、領海または群島水域内に進入できないのである。

こうした法的規制を踏まえて考慮すれば、海賊に効果的に対処するためには、二国間及び多国間の協力が必要なことは明らかである。

 

本稿は、アジア太平洋における海賊の最も一般的な形態、近代海運業に対する海賊に焦点を合わせている。

この範疇に属さない形態の海賊としては、??政治的な動機に基づく海賊??(または海上

 

 

 

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