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ミスを是正することにある。このためには,コスト的に十分耐えうる船舶運航システムの高度知能化・情報化の追求が不可欠である。

? 技術は海洋の可能性を拓く

地球の約70%を占める海洋は,すでに食料資源,エネルギー資源の確保,交通手段としての利用,レジャーの場という点では相当程度利用されている。

しかし,これからは海の上で活動するスペースの追求が必要である。この観点からメガフロートの研究が進められていることは周知のとおりである。

また,地球温暖化,酸性雨等の地球環境問題は海と密接に関係していると思われるが,地球環境に果たす海の役割は未解明であり,生態系における海の役割も不明である。先のレスポンシブルケアを真に有効たらしめるためには,この海の役割の解明を急ぐ必要があり,このためには,海を可能な限りメッシュ細かく,広域的に,かつ,リアルタイムに観測することが不可欠である。

こうした観測技術や観測網を供給することも造船・海洋技術の雄大かつ重要な課題である。

 

3 今後の研究開発体制

 

以上の様に,造船・海洋技術には,大きな役割が期待されている。この造船・海洋技術の研究開発をどの様な体制で実施していくかが問題である。また,近年,造船業界の民間研究者の減少が著しいとともに研究投資額も減少している。

一方,メガコンペティション時代に入った海運界は,新技術のリスク負担を嫌う傾向が強い。このため,新技術の実用化には,技術開発サイドから実証実験を行う必要性が高まっている。

この様な状況の中で,今後の研究開発体制はどうあるべきか研究開発の段階をベースに整理してみたい。

? 基礎・応用研究

情報通信,新素材等の急速な発展の中で,造船以外の分野の革新的技術を船舶・海洋開発に応用し,既存の造船・海洋技術の限界をブレークスルーすることが重要である。そのためには,この段階から幅広く新技術に目を光らせ,素早く取り込める姿勢,体制が必要である。

また,この段階では大学や船舶技術研究所の役割が大きいが,民間も含めた各研究機関が競争的に取り組むことも効果的であり,公募型基礎研究推進制度の活用も一手段である。

? 実証実験(機動的な“d”)

公共性が高く万全の安全性が要求され,また,初期リスクも大きい運輸技術においては,実証実験まで実施しないと将来は見えて来ない。基礎・応用研究の段階の成果を機動的に実証実験のできる体制作りが是非とも必要である。財源も大きな問題であり,従来同様の個別のプロジェクト毎の資金手当でよいかは検討の余地がある。

また,厳しい財政状況で国の資金が限られる中,幸いにも造船分野には船舶振興会の存在があり,特に1号交付金は造船分野での利用が前提とされている。これに民間資金を加え,実証実験を機動的にやれる体制を検討する必要がある。

? 環境・安全に関する安定的な研究

環境・安全に関する研究は公共性は高いが,必ずしも価格へ反映される訳ではない。そのため,基礎から応用,実証まで景気動向に左右されず安定・継続して実施できる体制,また,公的資金が投入しやすい体制が必要である。

? 生産技術の研究

はじめに,生産技術については国が関与する部分は少ないとしたが,造船・海洋技術の重要な柱の1つが生産技術であることは当然である。個々の企業の研究体制の縮小を補完するためにも,共同してこの分野の研究開発を効率的に進めうる体制が必要である。

 

4 結   論

 

以上の様な諸要請に応えるためには,研究開発の段階に応じた産学官のこれまでの研究体制に加え,より総合的かつ大規模な研究開発の実施が可能となるような体制が必要である。運輸技術審議会では早くから,こうした課題に応じるものとしてCOE(中核的研究拠点)の構想が打ち出されているが,そのような考え方を取り入れた効率的な研究開発体制の具体化に向けて早急に検討を進めていく必要がある。

また,国としても,先進国の一員として,造船・海洋技術の発展を通じ,21世紀に向けて,我が国のみならず,広く世界の人々の幸福と世界経済の健全な発展に貢献すべく,国際社会の中で立場にふさわしい責任を果たしていくことができるよう将来を見据えた施策を講じていきたい。

 

 

 

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