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産の中間段階で、冷却や洗滌などに豊富に水を使うといっても、農業とは決定的に異なる条件をもっていた。農業は扱う対象の性質からみて自然流量の利用可能性が大きいため水消費節約的技術を多用しうるには限界がある一方、工業は水の多使用産業一鉄鋼業、化学工業、紙パルプ産業などから水消費の相対的に少ない機械工業へという産業の体質転換があったこと、再利用の可能性が技術的にも容易であったことなどである。

こうした事情を反映して、日本の場合、水使用量の年次的推移をみると、農業が農地面積の縮小、生産減退の過程に移行した70年代に入っても農業用水は増加テンポは低下したものの減少をみるまでに至らなかった。一方、工業用水は70年代後半から減少傾向に入っているのである。70%をこえる高い回収率によって、淡水補給量は70年代に入って減少傾向に入っている。工業化による工業用水需要が農業用水のシェアを奪っていくという工業化の初期の段階の特徴は、日本では既に60年代に終わっていたのである。

表では水使用量の全容は75年以降になっているが、それ以前の水使用量のうち、工業用水に限定してみると、高度成長期の後半に当る65年〜75年の間に実に2.5倍の増加となっており、同じ時期の鉱工業生産の増加2.2倍との対比でみれば工業生産に対する水需要の弾力性が如何に大であったかを知ることができる。産業別にみると、鉄鋼業の3.7倍増で、増加寄与率としても実に30%となっている。これは淡水によるものであるから、海水使用を考慮すればより大きな水需要の増加が鉄鋼業で生じ、農業用水の増加が停滞色を強めていたのとは対称的であったことを知ることができよう。

水多消費産業からの産業転換にふれて、産業別の水消費の状況についてみることにしよう。業種別の淡水使用量は、日量(単位百万m3)でみれば、70年の場合、化学工業が29、セメント産業が17、ついで紙パルプ産業が14などとなっており、90年代に入ると化学工業49、セメント46、紙パルプ16などと増加している。いずれも高圧高熱技術のレベルアップをカバーする冷却用中心といえる。鋼鉄業が、70年代にすでに低下傾向に入りながら水準としても化学工業の5分の1程度の使用量に減じているのは、工場立地が原料輸入の関係で海浜立地であり、冷却用水は海水で充当

 

 

 

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