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4)標準船について

標準とは、そもそも売り手側が提示するものではない。その標準を採用することで、コストの削減だけではなく、必要十分な機能やメンテナンスの適性化、補修部品等の汎用性、メーカの選択範囲の拡大といったメリットが、あるしきい値を超え、誰もがその製品を採用するに疑いを持たない、つまりその船が実質的なスタンダードを世間から獲得することができるだけのものを有した船が、はじめて標準船と言えるのである。

標準船の合理性が叫ばれてから久しいが、一部の船主や漁協単位では、同型船の連続建造等は以前から行われており、特に珍しいことではない。しかしそのいずれもが、造船所側の工作の合理性を目指しただけの同型船であった。その船のもつ機能が標準と言えるレベルまで達していない、つまりその船自身が「合理性を保持した船舶である」というレベルを目指したものではなかった故、同型船から標準船になりきれていないというのが現状である。

 

(3)研究開発施設・設備(特に水槽)のあり方

 

1)水槽利用の現状

アンケートで目につくのは性能関係の基礎技術開発に関わる研究開発者の比率が突出して高く、更に企業での企画・コンセプト作り、新コンセプト船舶開発比率の高さからみて、試験水槽との関連の深い性能研究者の大半が基礎技術開発と製品関係(特に既存船の設計)を兼任していることがうかがえる。なお、大学の研究開発者、技術者がかなりの比率で企画・コンセプト作りや既存船の設計に参画しているのは注目される。

研究開発施設・設備の現状を見ると、回流水槽の活用が伺えるが、本格的な水槽設備である曳航水槽、運動水槽、キャビテーションタンクの数では、欧米諸国に比べても十分である。稼働率でみると企業の設備60%はこの種の設備としては低いが、一方大学の設備の40%は、大学の研究、教育用設備としては比較的良く利用されていることを示している。また、実験にかかわる研究開発者の人数は、企業よりも大学の水槽設備の方が多いことは、実験の内容にもよるが、企業における合理化の一面を示すものと考えられる。なお、水槽の数×運営費×12と研究費の総額はほぼ対応しており、研究投資のかなりの部分が水槽に関わる研究に向けられていることがうかがえる。

企業の研究投資大幅減少の中で、事業に直結する既存船関連や新コンセプト船舶関連への投資比率が高いのは当然としても、基礎技術開発関連への投資も行っており、大学の人件費負担のない研究費と人件費が大半を占める企業の研究費という相違はあっても、要素技術関係における民間の貢献の大きいことに気付く。

大学の場合は要素技術開発関連と共に新コンセプト船舶や既存船舶関連の比率が民間投資に対応するように高く、また、内容不明であるがその他とされている分野の比率の高い等、民間と異なる特徴がある。

以上を日本造船業の強み・弱みのアンケートと対比させると、わが国は得意とする基礎技術と既存船舶分野の技術レベルを保持しつつ、不得意とされる企画・コンセプト作り、新コンセプト船舶に関わる技術力向上に向けて産学共に注力していること、その中で、性能関係の研究開発者および水槽設備が重要な役割を担っていることがうかがえる。

 

2)今後の水槽設備のあり方

水槽については、規模を縮小しても企業が個別に保持するとの意見と公的な設備を利用するとの意見がある。なお、後者には水槽設備を保有していない企業の意見も入っていると考えられる。

 

 

 

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