日本財団 図書館


そのためには研究開発者に対する新発想への原動力とその実行力、あるいはコンセプト創造力と製造・保守の実務をバランス良く身につけていく必要があると考える。研究開発者はあまりにも船の実態を知らなさすぎると痛感する。

一方バブル時代以降年々減りつづける開発資金に対しても問題は多い。日本では大手造船所がそろっているために、製造側だけでの開発が可能であったため、ノルウェーに見られるような船主の出資に依存する必要もなかった。しかしそのために開発テーマの選択や、重点の置き方が一方向に偏ってしまう傾向がある。

各種の委員会に出席するのも、いつも造船関係者ばかりで機器メーカや機関、電気等の専門家に声がかかることは少ない。これからはニーズ側の関係者や周辺分野の技術陣も積極的に参加して行くような地盤を確立し、船主なども環境問題などを皮切りに、もっと積極的に新規技術の開発を支援して行くべきであろう。

また、日本には日本財団のような他国には見られない優れた基金があり、これらの活用範囲をもっと幅広く設定するなど、以前からあるテーマを掘り下げるのではなく、横に広げていくような研究開発体制を作ることも真剣に議論すべきであろう。

 

2)コストと研究開発成果

「折角の研究開発成果を船主が採用しない」とのアンケートの回答があったが、このコメントはユーザの立場である船主から見ると奇妙に感じる。船主として、コストに見合っただけの価値のない研究開発成果に対して、高価な費用をかけてまで採用するようなことは有り得ない。つまり、研究開発成果はユーザが採用できるレベルのコストでなければならない。 研究開発工程の中盤になった時に、その利便性とコストをユーザが購入し易いレベルに設定するべきである。この辺の適正な金銭的感覚、またはその適性なレベルに収束させるためのマネジメントが、国内の造船業界には大きく損なわれているように感じる。

 

3)ニーズと研究開発

ニーズが分からないことに対して不満を持つ研究開発者は多い。これはひとえに船主側から的確にニーズを発信していないことに他ならない訳で、船主にとっては耳の痛い話ではあるが、実は船主としても、その時代のニーズを的確に把握しきれていないのが実状である。つまり船主はキャリアであって、本来のニーズはその最終利用者である荷主にしか無いということが、ニーズの把握を難しくしている。

もちろん、安全運航や乗組員の居住性、操縦の容易性等へのニーズは船主としてあるが、それらが大きな枠での本質的なニーズとはなり得ないと考えるのが一般的である。結局、LNG船やコンテナ船のような巨大マーケットを形成する船のニーズはほとんど出ず、日々のニーズとして細かい使い勝手や喫水等を少し変更するだけのことが多い。

一方でシーズ型商品というものもある。ところがこれらの製品で成功した例は一部の舶用機器を除き、散見されない。やはり提案そのものに採用するに値する総合的メリットを有する必要がある。これらの製品は、机上でのコンセプトは素晴らしいものが多いが、実際のメンテナンス性やコスト、故障時の収束性、対応等、ユーザが気になるところに対して、ほとんど配慮がなされていない。シーズ型を提案するということは、完全に完成された総合システムを提案するぐらいの覚悟が必要である。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION