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NIIIPは、CALS技術を活用し、21世紀に向けての米国製造業のビジョンとして、多くの企業が情報の共有化を図り、電子情報の一括管理の仕組みを構築することで各企業の経営資源を有効活用するバーチャル・エンタープライズ(Virtual Enterprise:VE)を実現することを目標としている。このプロジェクトにおける取り組みは、21世紀の米国製造業の競争力を飛躍的に強化する可能性を秘めており、我が国の造船・舶用工業における高度情報化の方向性を検討する上で十分注目する必要がある。

第2、3章においては、我が国の造船・舶用工業の情報化実態、ならびに国内外の関連業界を含む幅広い海運全般の情報化動向を整理した。

我が国造船業における情報化は、大手企業を中心に情報化の流れを受けて着実に進展しており、現在は、業界・業際の情報化実験が進められている。シップ・アンド・オーシャン財団において実施中の高度造船CIMプロジェクトは、各社のCIM等の成果を生かして造船所間や造船会社間の情報交換の仕組みを確立することを目指している。具体的には、オブジェクト技術であるORB(Object Request Broker)を活用して設計や生産管理などに必要な情報を各社間で共有する仕組みを開発し、同時並行作業を支援することで工数の低減や企業間の協業の促進などを実現することを目標としている。

一方、舶用工業においては、日本舶用工業会において情報化のための環境作りの取り組みがなされているが、各社ベースでは社内業務の情報化が進められている段階であり、情報化技術の高度な活用は今後の課題となっている。

また、船舶CAL3プロジェクトでは、造船、舶用、海事協会、船主の間の情報交換を電子化するための実験が進められている。これらが将来的に実用化された場合、?図面承認業務の効率化とそれにともなう本来的な検査機能の強化、?船主(顧客)ニーズに合わせた迅速な対応、?船のトラブル情報などの共有化による業務効率化と運航の安全化などが期待される。

これに対し、顧客である海運業や、欧米の造船・舶用工業でも情報化の取り組みが盛んに行われており競争力の拡大を目指している。

各国の海運事業者は主として物流管理面での情報化を進めているが、ノルウェーでは、これに加え、旧式船舶、多国籍船員、管理機能の分散や、今後予想される質の高い船員不足などの打開のため、海運業者が、舶用業者、船級協会、関連部局と緊密な共同体制を確立し、海運業の新経営概念と情報システムを開発することによって、競争力の強化を目指している。この取り組みは「Information Technology in Ship Operation Programme」と呼ばれている。本プロジェクトは、船と陸(船主)の間の情報の流れと意思決定の改善のために、最適な操船計画の立案、操船状態の収集・評価をサポートするシステムを開発している。また、この他にもメンテナンスコストの最適化にも取り組んでいる。例として1994年に開始したプロジェクトでは、船内システムのメンテナンス最適化について検討が行われている。こうした海運業のさらなる安全性の追求と効率的な操船ニーズの高まりは、造船・舶用工業の新しい事業機会を作ると考えられる。

国際的な造船・舶用工業の情報化の取り組みとしては、欧州が中心となって進めているMARISプロジェクトが挙げられる。これは、国際協力により世界共通の情報基盤を開発することにより、造船・舶用工業間の連携の強化、陸船通信の強化等、海運・造船関連の幅広い分野における情報通信技術の潜在価値を明らかにすることを目的とするプロジェクトである。

MARISは11あるG-7パイロットプロジェクトの1つであり、欧州委員会(Europian Commission)とカナダが主務国を務める。MARISは多数のプロジェクトの集合体であり、主に欧州委員会、カナダ、ドイツ、米国などが参加している。

第4章では、造船・舶用工業の高度情報化を検討する上で参考となると考えられる他業界の情報化事例を整理した。図表1に示す各産業の情報化事例は、比較的新しい取り組みであり、その成否を評価することは現時点では難しい。ただし、情報化の推進要因として、企業間取引の効率化ニーズを基本としていること、標準化の推進はリーダー企業や行政の支援によって行われていること、顧客からの要請等により開発期間の短縮を図っていることなど造船・舶用工業の情報化の方向性を検討する際の参考となるものと思われる。また、米国航空運航業界のように、中堅会社の保守サービスを請負う(アウトソーシング)会社を業界で保有することにより産業全体の効率化と競争環境を維持している事例もある。

 

 

 

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