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概要

本論文の第一部は、緊急防災計画策定における政策上、法律上及び組織上の諸問題を扱う。まず、緊急防災計画に向けられた大きな期待を確認する。次いでノルウェーにおける緊急防災計画の法律上及び組織上の問題を提起し検討する。出発点は汚染管理法であり、同法は重大な汚染の潜在汚染者たるあらゆる企業の経営者に対し、汚染を防止し、その影響を抑止するための緊急防災システムの設定義務を規定している。

本論文の第二部は、公海又は沿岸国の領海において海難事故が発生した場合、沿岸国が介入可能な権限の範囲について検討する。

 

第一部

緊急防災計画策定における政策上、組織上及び法律上の諸問題

 

はじめに

油流出事故の処理及び緊急防災計画を検討する場合、その使用資機材に焦点が絞られることが多い。オイルフェンス、回収装置、化学的分散処理剤、生物修復等様々な技術の実効性については広範な論議が行われる。しかし資機材は全体像の一部にしか過ぎない。政策上の視点、法律上の枠組み、特に組織の上部機構の問題は緊急防災計画の構成要素であり、全体像を完全なものにするためには、これらの問題に取り組まなければならない。政策上の問題はこの三つの中では恐らく最も広範にわたるものである。これを別個の問題としてとりあげる。法律上及び組織上の問題は相互に関連する重要問題であり、一緒に検討する。

 

1. 政策上の問題

油流出緊急防災システムに寄せる一般的な期待は多岐にわたっている。これまで不幸にして大きな油流出事故を経験した多くの国と同じく、自国の沿岸で大きな油流出事故を経験する国は、それがいかに急速にその社会全体の重大な問題となるかを認識する。海浜や海岸線を数マイルにわたって汚染する油、特に油にまみれて徐々に死んでいく海鳥の写真は、あらゆる面において現代社会が自然に与えている危害と自然との不調和を示す事例となっている。重大な油流出は、やがて環境災害として認識されることとなるであろう。その影響が拡大し、浄化コストが上昇すると、情け容赦のないスケープゴート探しが行われる。

重大な油流出事故が発生すると、一般に油流出緊急防災システムを強化するための具体的な行動が強く要望される。緊急事態への対処能力を誇示するために、新しい機材に対する支出はかなり積極的に行われる。これは非常に有益かも知れないが、こうした改善が法律上も組織上も行われない限り、次の事故においては失敗してしまうことも考えられる。

一般に緊急防災システムに対する期待は非常に大きい。この意味で一般的な政策上の観点は、より現実的な目標のための基本を整えようとするものである。そのため、我々は、ノルウェーにおいて過去数年間にわたり、「海岸近くで油流出事故が起きたら、海岸に油がやって来る」ということを一般市民に繰り返し知らせることが重要であると考えてきた。我々は適正な機材を所有してはいるが、流出油の全てを海上で回収することを期待するのは非現実的である。強風と高波を伴う悪天候の状態では、最新の緊急防災システムでも「お手上げ」である。

同時に、国家緊急防災システムをより日常的なものとして確立、維持、改善することに責任を持つ者にとっては、緊急防災システムの有効性を定義付け、評価するための手段又は特定の明確な基準が必要となる。ノル

 

 

 

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