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症例と医療チーム16人(健常者)の飛行中における血圧と心拍数、酸素飽和度のデータを示す。健常者では血圧は136±17mmHgから124±16mmHg、脈拍数は85±10bpmから77±12bpm、酸素飽和度は97±1%から95±1%に低下した。酸素飽和度の低下はこれまでの報告2)と比較して軽度であった。一方、重症心不全を有する2症例では健常例と異なる変化を示した。症例1では血圧の低下(86→68mmHg)をみとめたものの脈拍は不変であり、また症例2では、血圧、脈拍とも軽度の上昇を示した。このように重症例では低圧低酸素に対する反応を予想するのが難しいことを示す事例である。

低圧低酸素状態における心拍出量の研究では増加するという報告が多い。Malagon Iらは患者輸送機の中でドプラ法を用いて心拍出量を測定し、その結果、心拍出量は健常例、疾患例とも有意に増加し、その程度は疾患例で大であった3)と報告している。しかし、心拍出量に関しては減少するとの報告もある4)。我々の成績は、心拍出量に関して有意な変化を認めず、今後の研究に余地を残す結果であった。また、低酸素状態ではカテコールアミンの分泌が増加し、心臓の収縮性は高まるものと考えられるが、今回の結果では、10000フィートに達した直後、左室円周短縮速度は増加傾向を示したが、駆出率、拡張機能の指標である等容拡張時間や減速時間は全く変化しなかった。

低圧低酸素状態における脳血流量、あるいは頸動脈血流量に関する研究は多い。Huang SY5)らは平地と4300mの高地で内頸動脈の血流速度を測定し、高地では15±7%の増加を認めている。LaManna JC6)らはラットを使い、0.5気圧の状態で脳血流量が38%増加することを報告している。同様にYang YBら7)も山羊を使い高度4000mにおいて脳血流が146±10から185±8ml/(kg・100g)に増加することを報告している。我々の結果も同様に頸動脈血流量で22%の増加を認めた。また、速度より血管径の増加が主体であることから、低酸素状態は脳血管を拡張させることにより、脳血流を増加させるものと考えられた。すなわち脳血流

 

 

 

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