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「航空機乗員の精神的、環境的ストレスが心機能に及ぼす影響に関する研究」

 

埼玉医大第一外科

尾本良三

松村 誠

 

要旨

 

航空機乗員の低圧環境に対する影響について低酸素、心血行動態、脳血流の観点から検討した。若年健常男性5例を対象とし、低圧実験室内で超音波・ドプラー診断装置、自動血圧計、パルスオキシメータを用いて低圧中の酸素飽和度、心機能、血行動態、頸動脈血流を連続記録した.減圧方法は室内気圧を5分で0.69気圧(高度3000m相応)に下げ、15分間低圧を維持した後、大気圧に戻した。全例、低酸素症状を示さなかったが、酸素飽和度は減圧後15分で97±1%から85±3%に低下。血圧、心拍数は低下傾向、左室円周短縮速度は増加傾向を示したが、左室容積、駆出率、心拍出量、左室拡張機能は不変であった。一方、脳血流の指標として用いた頸動脈の血管径と血流量は0.3±0.1mm、100±68m1/min増加した。航空機内の環境は低酸素により脳血流を増加、心筋収縮性を売進させるが、その機序は心拍出量の増大ではなく組織内の血管拡張に基づくものである。

 

旅客航空機の機内は低圧低酸素状態であり、その影響は乗客だけでなく乗員にも及ぶ。乗務中あるいは後に高山病類似の症状を訴える場合、低酸素による影響が大であり適切な指導が必要であり、航空機乗員の航空身体検査基準の見直し時の参考となる

 

は じ め に

一般に航空機の機内圧は飛行高度の上昇に比例して低下するが、旅客航空機では乗員、乗客の安全のため加圧され、実際の高度よりも高い状態に設定されているが、それでもなお0.77〜0.84気圧(高度2300〜1700m相応)の低圧状態である。それに伴い、機内の酸素分圧も低下し、乗客、乗務員は飛行中常に低圧低酸素状態にさらされている。また、この変化は通常、急激なものであり、呼吸循環障害患者や機内の加圧系統に故障がある場合には急性高山病と同様の症状を呈する場合がある。

本研究ではこのような航空機乗員の低圧環境に対する影響について低酸素、心血行動態、脳血流の観点から検討した。

 

方法

対象は若年健常男性5例。年齢は24〜48才。低圧実験室において被検者を左側臥位にし、超音波・ドプラー診断装置、心音計、自動血圧計、パルスオキシメータを用いて低圧中及び前後で酸素飽和度、心機能、血行動態、頸動脈血流を連続記録した。使用超音波装置はAloKA SSD-2200プロトタイプで心臓用では3.5MHz、頸部では5MHzの超音波探触子を用いた。断層法により左室拡張期末期径(Dd)、収縮末期径(Ds)、駆出率(EF)、平均左室円周短縮速度(meanVcf=((Dd-Ds)/Dd)・ET)、左室流出路(LVOT)を計測し、パルスドプラー法を用いて拡張能の指標である左室流入血流速度波形のE波とA波の比(E/A)、Eの減速時間(DCT)を計測した。また、心音図の第二音と左室流入血流の開始時点の差、等容拡張期(IRT)を計測した。さらに左室流出路では断層法による断面積とパルスドプラー法による血流速度積分値を乗じて一回拍出量、さらに、心拍数を乗じて心拍出量を求めた.頸動脈の測定は右総頸動脈中央部にてカラードプラ法を併用して行った。すなわち、血管径の計測に際してはカラードプラモードで表示された部位の内腔径を用い、血流量は心拍出量と同様にパルスドブラー法による血流速度積分値、心拍数を乗じて求めた。

 

 

 

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