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(4) 「短期積み上げ方式の親離れ自立体験」

地域で「自分なりに楽しく生きる」ためには、やはりそれなりの準備が必要なのではないでしょうか。それを堅苦しく「訓練」と呼ぶから、一方的な押しつけになるのです。それぞれの成熟に見合った、未知の「体験」なのだと、考え方や取り組み方を変えればいいのです。「短期積み上げ方式の親離れ自立体験」の手法を少しご紹介しましょう。

開始後の2〜3回目までは、参加者はただみんなと一緒にいるだけで、援助者は手出しや口出しを一切しません。中には、家を離れた淋しさと怖さでパニックになる人もいます。それでも、援助者は危険のないように配慮するだけです。

半年を過ぎたあたりで、みんなとの生活に慣れてくれば、援助者は個々の状態や能力を考慮して、グループホームの「住まいの形と方法」を準備します。そして、それに対応した「暮しの形と方法」を彼らに伝えるのです。

その形と方法は、できるだけ単純なものでなければなりません。それを文字(あるいは絵)に表わして、起きてから家を出るまで、また帰ってから眠るまで、「何をどうすればよいのか」を順次伝えます。そして、それを繰り返し体験し学習してもらいます。

ロボットを作るのではありません。彼らはそれを体得した後、自分なりの形と方法を、やがて自分に合わせて作っていきます。体験が、やがて意欲を引き出し、彼らを自立へ向かわせるのです。そのような経過を踏まない、「自分なりに楽しく生きる」自立的な暮しはありえないでしょう。

ここで、「地域生活支援センター」がどのような働きをするのか、もう少し詳しく、利用者及び職員と所長との問答でお伝えしましょう。

 

3. どのように支えるのか、その2

―「地域生活支援センター」の働き―

 

(1) 大人になるための準備

(問) 「家を出てグループホームで自立したいと思っていますが、センターでは毎日きびしく訓練されるのですか。」

(答) 「センターでは30人ほどの男女が一緒に生活しますが、全体に決められた日課や規則はありません。あなたたちが自立するために必要な学習プログラムをいくつか用意しますが、どれを選ぶか、どれから始めるかは、あなたたちしだいです。それよりも、知らない人たちとの生活そのものが、あなたたち自身による、自立のための何よりの学習になるでしょう。」

 

(問) 「自立するために、私たちは何をすればいいのですか。」

(答) 「次の四つのことを身につけてください。一つは、自分の生活は自分で作るんだという決意です。たった一度の自分の人生を、自分なりの考えと力で精いっぱい楽しく生きようと心に決めることです。

二つは、そのための方法です。いろんな方法があります。その中から、あなたができること、しなければならないことを、自分で選びとってためしてください。やれるだけやってみて、それでもあなたの力でできなければ、そのあとは私たちが助けます。

三つは、友だちです。ひとり立ちとはいっても、一人暮しはすすめられません。だって、1人は淋しいし危険でしょう。気の合う友だちと暮らすことをすすめます。センターに入ったら早いうちに、誰といつどこでどのように暮らすかを、それぞれの人に決めてもらいます。だから、友だちさがしは重要です。

四つは、お金です。アパートを借りるにはたくさんのお金がいります。それに、たんすや机やなべ釜や冷蔵庫や洗濯機などが必要でしょう。テレビやビデオや化粧台もほしいですね。そのためには、お金をたくさん貯めなければなりません。100万円を目標にしましょう。」

 

 

 

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