施設を出て街に暮らす
―伊達市における地域生活援助の実際―
小林繁市(伊達市地域生活支援センター所長)
1. 障害をもつ人達を優しく包み込む町、伊達市
伊達市は北海道の西南に位置し、鉄の町室蘭市と景勝の地洞爺湖・昭和新山に囲まれた農漁業を基幹産業とする静かな町です。内浦湾に面した温暖な気候風土や豊かな自然環境から「北の湘南」ともいわれ、北海道随一の快適な居住地として知られています。
この小さな町に、現在223名の知的障害をもつ人達が、アパートやグループホームなどで生活しています。なぜこんなにもたくさんの知的障害をもつ人達が、伊達の町に暮らすことになってしまったのでしょうか。それは、伊達市郊外の東山の中腹に定員420名の「北海道立太陽の園」という知的障害をもつ人達の大きな施設があり、そこに入所している人達が伊達の町に移ってくるからです。
地域に住む223名の人達は、全部で67戸の住居に住んでいますが、これらの建物は全て町の中のごく普通の民間の住宅です。障害をもつ人達も町の外れにある施設に住むのではなく、普通の市民として、町のど真ん中で堂々と生きていけるように、というのが私達支援者の願いです。
伊達の町に暮らす知的障害をもつ人達への援助には、大きく分けて四つのタイプがあります。それは、?@グループホームなどで暮らしている共同生活者への援助、?Aアパートなどで一人暮しをしている単身生活者への援助、?Bカップルで暮らしている結婚生活者への援助、そして、?C障害の重い人達も含めた在宅生活者への援助です。
たった一度きりの人生を思いっきり生きてみたいという本人達の願いに応えていくためには、一人ひとりの力や適性に合わせた多様な住居や援助形態が必要です。
2. 一人ひとりのニーズにあわせた多様な住居と援助形態
表は、平成9(1997)年10月1日現在の太陽の園・旭寮が援助する地域住居の一覧です。57の住居名が並んでいますが、表中の2番目「猿橋アパート(5戸)」とあるのは、猿橋さんのアパート5戸を借りているということで、これらをそれぞれ1戸として数えると合計70戸になります。このうち3戸は隣の室蘭市にあり、伊達市には前述の通り67戸の地域住居があることになります。
伊達市で初めての地域住居「栄寮」が開設されたのは昭和53(1978)年のことです。当時は北海道の生活寮や国のグループホームの制度もなく、また知的障害をもつ人達には一緒に暮らす人が絶対に必要だと考えられていましたので、世話人同居の「民間下宿」としてスタートしました。
その後、この民間下宿が次々に開設されることになりますが、知的障害をもつ人達の地域住居が急激に増加したのは、年金法の改正によって障害基礎年金が大幅に増額された昭和61(1986)年以降のことです。それまでは、地域生活が可能なのは、一般企業に就労している比較的障害の軽い人達と考えられていました。しかし年金の増額によって、障害の重い福祉的就労の人達も地域生活が可能となり、さらに平成元(1989)年度、待望久しかった国のグループホーム制度が誕生し、このことが弾みとなって、加速度的に地域住居が広がることになったのです。