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麻西さんは、偏屈で名が通っています。ある時は訪ねてくる人を威嚇し、ある時は新聞や広告を引き裂き、それが部屋いっぱいに散乱していて驚かされたこともあるそうです。世話人の島さんは、腹をたてたり、我慢をしたり、押したり引いたりしながら約半年を過ごしてきました。

「この間、麻西さんのお母さんから電話がありましてね。今年のお盆には、麻西さんが、家族におみやげを買い、甥や姪におこづかいを渡したんだそうです。すごく変わったと喜んでいました。服装もきちんとしているし、と言ってくれたんです。それが、うれしくて。どうしてなのか麻西さんに聞いてみたんです。話しなんかしてくれたこともなかった麻西さんと最近はいろんなこと話し合えるんですよ!」

島さんの顔は、喜びで紅潮しています。

「まだあるんですよ。橋本さんのお母さんからも息子がお世話になります、って電話はじめてもらいました。」

「ほんと、子供が生き生きと暮らしはじめると、家族や親との関係がよくなるのよねぇ。」

こんな風に、彼らの想いを実現に移し、その変化をお互いに共有できる充実感は何ものにも代え難いと思いました。

大切なのは、障害をもつ本人が私たちに対して意見を自由に述べ、そのことが具体的に実現される、ということではないでしょうか。そして、私たち自身が、障害をもつ本人達から率直に評価を受けようとする姿勢ではないでしょうか。

 

7. 一戸建て・三世帯住宅のカップル2組

 

このグループホームは、障害が重くて就労が困難な娘のためにと、平成8(1996)年に父親が購入した家を法人が借り上げて運営しているものです。将来、家賃3人分が娘の収入となることで「地域生活」の継続を願った結果でした。当初、彼女の結婚なんて誰一人考えもしませんでしたが、家の設計を考えている時点で、本人が「家ができたら佐野さん(好きな人)と住む」と発言したことがきっかけになり、もう1組の要援助のカップルと合わせて、4人を単位として、世話人を得て暮らすようになりました。1階と2階に分かれ、玄関とお風呂以外は完全に別という二世帯住宅の形で暮らしています。それぞれ自分達が選んだ家具やカーテンで素敵な雰囲気をつくり出しており、広いゲストルームがあって、2組とも両親が頻繁に訪れ、とてもよい親子関係が続いています。

 

8. 一戸建5LDKの住人

 

これは次々と4人の暮しが変化する中で、「普通の暮し方」がすっかり地域に定着していった例です。このグループホームは、男性2人、女性2人で始まりした。何か問題が起きはしないか、と心配も数々ありましたが、街の中の暮しは続いています。平成8(1996)年に認可されたこのグループホームの特色は、絶えず入居者の移動があることです。結婚して外へ移った人、他のグループホームに移った人、絶え間なくメンバーが変わりました。最近、このグループホームのボス的存在だった女性が、一人暮しをすることになりました。その時、本人自ら、支援してもらう人として、これまで世話になった世話人さんを指名しました。あれ程言いたい放題わがままを言い、うるさいと罵り、世話人さんの言うことに耳を傾けなかったのに、いざ離れるとなるとお互いこれほど情で結びついているのは実に不思議です。

朝夕、もと居たこのグループホームを訪問し、時には泊まっていくこともあります。その時は食事の材料を必ず持ってくるとのことです。こう考えると「いろんな暮し方を支えられる」ことが世話人の要件ではないかと思えてきます。

この世話人さんは、近くに暮らす女性ばかりの2人も見てくれています。時々、大掃除に行っているのですが、掃除だけの支援というのも人によっては必要なことであり、何事も受け入れてくれる世話人(地域の主婦)の姿勢に感謝しています。

 

 

 

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