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「どうしたの?スポーツ大会、行きたくないの?」

「仕事が心配だから…。」

「仕事場へは、お休みのお願いできるよ。」

「他の人みんな行くん?」

「そうね、ほとんどが行くよ。」

「じゃ、行くことにしょうか。」

部屋では、歓声があがります。これでハイツドリームの7人の意見がまとまったとみんなで喜んでいるのです。

それから平山君は、同居の2人の若者が帰宅したかどうか世話人さんに聞き、食事をすでに誰かが運んだかどうかも確かめ、階上にあがって行きました。みたところ、かなり自立して生活している様子です。

部屋では、女性2人が隣の男性2人の帰りを待ち、世話人の吉田さんは、食事の支度を終えたあと彼女たちの話相手になりながら、誰かのジャンパーのつくろいをしていました。

「おそいなー。」

「上村くん、また、どこぞでくんだら(無駄話)言よんだろか…。」

「残業とちがうん?」

「先に食べたら?」

「そうしよか。」

2人は、ゆっくりと食卓に向かいました。それぞれがそれぞれに思いやりを持ちながら、けれども、柔軟に、のんびり自分たちのペースをつくっている、という感じでしょうか…。誰もせかせかせず、強制せず、それでも自分勝手ではなく、時間はゆったりと流れているようにみえました。

 

2. マンション「それいゆ」に住む人たち(結婚2カップルと単身3人)

 

6階建てのマンションの1階で平成3(1991)年開設「第二ホーム」の人たちが住んでいます。

106号室に藤川夫妻、102号室に市原夫妻、それぞれ2年前に結婚しました。グループホームが始まってからは、6年目になりますから、4年目で結婚して一緒に住む形になったわけです。この人たちは、はじめからカップルではあったけれど、家族が結婚に賛成しなかったということもあり、最初グループホームのとなり同士という形をとっていましたが、時代の流れもあって「本人の望みをかなえる」という方向に変わったのでした。家族が結婚に同意した理由の一つは、「どこに住んでいようとも(グループホームであっても)しっかり支援してもらえる」という安心感であったと思います。

結婚をしてから、この2組のカップルは、以前より出来ることがずっと多くなりました。「お互いの得意が、もう1人の不得意な点を助け合う」という面と「結婚したのだから頑張ろう」という両面がほどよく現れていると思います。

結婚してから世話人は、精神面であまり当てにされなくなったということです。不得意なことの手伝いは必要ですが、早くふたりきりになりたいという思いが伝わってくるそうです。世話人に対する「甘え」がなくなったといってもよいのではないでしょうか。それぞれの住居は、もはやグループホームというよりは、藤川宅、市原宅であって、しばらくは、2組とも世話人が藤川宅に出かけて食事づくりをしていたものの(彼らは食事まではつくれない)、私たちは、彼らのためにも世話人のためにも、拠点を移そうと考えました。

そこで考えついたのが、同じマンションの2戸を追加借用し、そこの1戸分に3部屋を使ったダイニングキッチンをつくり、そこを拠点とすることでした。残りの1部屋は、一人暮しを理想としている男性1人、別の1戸に若い男性2人が住むことになります。ここも世話人は7人分の食事づくりをしていることになり、条件は「ハイツドリーム」と同じです。

この工夫によって、「暮し」の単位は1人、2人もしくは3人となり、個別的です。

きっと、読者は、制度的に問題はないかと、疑問をもたれることでしょう。このことは、県の監査の折りに正確な数字と状況を報告し、入居者のニーズ、国のグループホームの制度の理念、お金の流れ方の不合理な点なども充分に議論して、方向性を明らかにした上で共同で工夫を重ねていく約束をしています。

 

 

 

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