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京にお帰りになるまでおじいちゃんはここに生きておいでになる、そう考えていた私達がどうして「御遺体」と呼べようか。どうして「御霊前」の花を「お供え」できようか。

実習を終え、柩にお納めするとき、私達は口数が少なくなっていた。おじいちゃんが、「御霊」に戻られるときが遂に訪れたということ、それはこれまで親しくお相手させていただいた人とお別れする悲しさを含むものであった。出棺に先立ち実習生だけで最後のお礼を申し上げているとき、私はおじいちゃんが今こそ御遺体で、御霊でいらっしゃることを強く感じた。そして、医学のため、学生のために旅立たれる日を後にされ、はるか遠い地から沖縄にお運びいただいたお志に対して、厚い感謝の気持ちに打たれ続けた。

おじいちゃんが旅立たれたあと、斎場でご家族から生前のおじいちゃんの書いておられたいくつかの文章を拝見する機会を頂いた。そこには、とりわけ大きく「感謝」と書かれていた。御家族からは「人生の最後を好きな沖縄で過ごすことができて、本人も喜んでいると思います」とのお言葉を承った。私は、おじいちゃんへの私達のお付き合いの仕方は、こちらの御家族にとってはそれほど失礼にはあたらないだろうと思えて、そして何より、私達からの話しかけにおじいちゃんからはっきりした御返事を頂けたようで、本当に嬉しかった。

御家族をお見送りして大学に帰ってくると、講内はコスモスの花盛りである。白と黒の世界から帰ってきた私には、その鮮やかな

 

 

 

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