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か」、「神経や血管などは、どのくらいあるのか」という不安が襲いました。初日はそういう心の様相がめまぐるしく変動しました。始まってから四〜五回目で何とか自分のペースを掴んだと思います。きっかけは予習でした。とにかく何回も何回も実習書を読んだし、ラテン語も何度も練習しました。そうこうするうちに、考えてある程度の予測をたてて実習するようになったと思います。頸部の解剖では、浅層で剖出しておいた皮神経をもとに頸神経ワナを剖出できたときはかなり興奮しました。うまくはいえませんが、宝物でも発見したかのようなそんな気分でした。そして、実習が進んでいくうちに、それまでに剖出しておいたものが一つの流れとして捉えることが出来るようになってきました。講義で覚えた知識が、その流れに組み入れられてまた深みを増していったのです。

自分にとって今回の実習は、考える面白さを分からせてくれたものだったと思うし、また、初日こそ「ご遺体」であった実習体が漠然とした大きな流れの中で違った形で蘇ってきていろいろな問を与えていただいたり、また、疑問を解決していただきました。

我々は見ず知らずの者に対して、自分の体を余すことなくさらけ出してくれたことに深く感謝致します。なにぶん初めての解剖であったので、右も左もわからずいろいろと失敗もしました。時にはやめてしまいたいと思ったこともありました。しかし、四ヶ月間向かい合って頑張っていくうちに、言葉では言えない何か大きなものを教わったと思います。

 

 

 

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