した。
私の周囲には医者が多く、前から解剖学実習の話は聞いていたので、心の準備はしているつもりでしたが、最初の頃は緊張のあまり実習後に食べ物がのどを通りませんでした。
六月中旬、実習が進むにつれ、緊張感がとけ、ご遺体の扱いにも慣れた頃、私には実習に対する姿勢を改める二つのきっかけがありました。
一つは、実習中にご遺体の右目が糸で閉じてあることに気づき、糸をといてみると、中から義眼があらわれ、先生にその理由を伺ったことです。「献体される方のほとんどが、アイバンクにも登録されている。両目をアイバンクに登録すると解剖学実習の学生が困るので片目は残してある」ということでした。医療の向上の為とは言っても、見ず知らずの他人の為にどうしたらそこまで自分を提供できるのだろうか、と考えると、ご本人とご遺族の医療への深い傾倒と理解に頭の下がる思いがし、ご遺体への敬意で胸が一杯になりました。そして、実習をおろそかにしてはいけないと改めて思い直しました。
二つ目は、時を同じくして、私の母が自分も献体したいと言ったことです。周りには、献体をした人は一人もいないのに、多勢の人が献体に登録されているという話をした時でした。私の父も二人の弟も、献体によるご遺体を解剖させて頂いているので、母にとっては恩返しのつもりなのかもしれませんが、私はすぐに反対しました。遺骨が2年近くは家に戻れないことを伺っていたし、体が解剖さ