体を通じて何か学ばなくてはという責任感も覚えたのである。
僕は将来ホスピスで働きたいのだが、ホスピスに入院している患者さんと解剖実習のために献体して下さる方とはどこか似ているように思えるのである。ホスピスに入院している患者さんは自分の病気がどんなもので、後どれくらい生きられるかちゃんとわかっている。献体して下さる方は、自分の死後体を医学の役に立てて欲しいと、そういう考えからそうしている。生前と死後、そこに違いがあるにせよ、自分のことを前向きに考え、しっかりと決めているように気がして、只々尊敬するばかりである。
僕は医者になったとき、何でも割り切れてしまうような医者にはなりたくない。何ていうか、人間の心を持って、患者の気持ちを考えてあげられるような医者になりたいのである。理想論かも知れないが、そういう気持ちを大事にしていきたいと思う。
解剖学実習を終えて
菊池 佳乃
実習が開始される前、私にはとても多くの不安があった。
第一に遺体を直視できるのか。臭いはどうか。どの程度まで解剖するのか。想像以上に大変な作業なのか。私は着手する前からいろいろと悩んでいた。でもその悩みは遺体を見た瞬間に消え去っていた。