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ワークショップ

?「脳と音楽」

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◆進藤美津子(しんどうみつこ)

広島県立保健福祉短期大学教授

 

■プロフィール

 

広島県立保健福祉短期大学 言語聴覚療法学科教授

言語聴覚障害の分野のなかでも、脳と言語、脳と音楽について関心が深く、特に脳と聴覚の認知障害が専門である。大学では音楽療法概論の講義も担当しており、人の心を癒す音楽の言語聴覚療法への活用にも取り組んでいる。

 

■要旨

 

1.はじめに:音楽を聞いたり、歌を歌ったり、楽器を演奏したり、あるいは作曲したりというさまざまな音楽活動が、脳のどの場所で営まれているかということについては、古くから多くの人に関心をもたれてきた。初期の研究では、音楽は左脳(左半球ともいう)の機能として言語と結びつけて考えられてきた。その後、臨床的研究や実験的研究により、音楽能力には右脳(右半球)も関わっていることがわかってきた。今回は「脳と音楽」について、「脳と言語」を比較しながら考えてみたい。

2.脳と言語:脳の言語の中枢は、右利きの人の大部分が左半球にあることがわかっている。そのため左半球は、別名として、“優位半球”とも言われている。脳血管障害や頭部外傷などで左半球の言語の中枢が障害されると、それまで自由に会話をしたり、読み書きしていた言語機能が障害され、“失語症”となる。

3.失語症と音楽:失語症の中でも、話しことばに障害があるタイプのケースでも、ことばはスムーズに出てこないにも関わらず、馴染みのある歌のメロディと歌詞を歌うことができる例が多い。失語症者は言語中枢のある左半球が障害されていても、反対側の障害されていない右半球の働きにより、歌を歌ったり、音楽を聞いて楽しむことが可能である。自分の好きな音楽を聞いたり、歌を歌うことによって、楽しい気分になったり、自分に自信がついてきたり、何よりも心を癒すことができる。

4.脳と音楽:一般に音楽の機能は、右半球が優位であるといわれている。しかし、それは言語機能の左半球優位性ほど強固ではない。音楽の認知に関しては、左右、両側の側頭葉が関与しており、音楽経験の豊かな音楽家は左半球で、音楽経験の少ないいわゆる素人は右半球で音楽を聞いているといわれている。歌唱や楽器の演奏など音楽の遂行には主として右半球が関与していると報告されている。

5.おわりに:音楽経験や音楽能力の違いによって音楽機能の大脳半球の優位性が異なることは、従来より多くの人の関心を集めてきたことである。しかし今日なお、“脳と音楽”については“脳と言語”ほどはまだ解明されていない。今回は、音楽のもつ心理作用(音楽療法)と生理作用、音楽とヘルスケアについても取り上げる予定である。

 

 

 

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