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基調講演?

「21世紀への新しい芸術のかたち」

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◆石黒敦彦(いしぐろあつひこ)

「来るべき芸術」のためのワークショップ代表

 

■プロフィール

 

1952年生まれ。1986年「来るべき芸術」のためのワークショップを設立し、芸術家と科学者の共同作業による新しい文化の在り方を模索。美学校に芸術科学実験工房を設立(1987年)。「エクスプロラトリアム展」(科学技術館他1989〜91年)の日本側企画・ワークショップ部門を担当。体験型ミュージアムを研究する課程で障害者の芸術文化活動も含めた新しい枠組みを提唱するに至る。横浜ラポール開館記念展(1992年)の企画・構成をはじめ、アートセラピスト、福祉デザイナーらとの共同研究によるワークショップを幅広く行う。多摩市の科学文化施設への参画(1995年)、国立科学博物館・創造的科学学習推進事業の講師・プログラム開発委員(1996年〜)、「メビウスの卵展」全国委員会代表(1991年〜)などを務めている。著書:『体験型ミュージアム』(フレーベル館、近刊)、『宇宙論が愉しくなる本』(宝島社・共著)『ニュートンの新冒険』(UPU・共著)

 

■要旨

 

芸術、科学、福祉の重なりあう複合的な文化の在り方

 

20世紀、とくに広島、長崎への原子爆弾の投下の時期と前後してより顕著になった軍事と産業と科学・技術の強固な三重の関係は、大きくこの世紀の文化総体に影響を与えた。それは科学・技術がその強力な体系的思考ゆえに一方的に突出し、他の文化との調和的なバランスを顧みない傾向が続いた時代でもあった。この文化的なアンバランスは、東西冷戦の終結した今日もなお、大きなひずみとなって存在している。それゆえ、このアンバランスを是正し、調和へと向かうための文化相互の新しい関係の創出が求められている。この新しい関係は、先の三重の関係に代表されるような攻撃的(aggressive)な性格からの脱却を目指している。その際に、芸術と福祉の新しい関係の創出は決定的に重要な条件となる。本会議で報告する「芸術、科学、福祉の重なりあう複合的な文化の在り方」への試行は、その一つの先触れであり、今日「芸術とヘルスケア」について関心を持つすべての人々によって検討・吟味されるに値するものと信じる。

本講演では、まず最初に、1960年代末の欧米の科学博物館の革新運動から生まれた、観客が見て、聞いて、触れて、五感で科学的な原理を体験できる「観客参加型の科学展示物」が、70年代、80年代の実践を経て、科学教育の専有物を超えた超分野的な可能性を獲得するまでの経緯を報告する。それは科学教育の装置であると同時に、芸術表現であり、福祉機器であり、リハビリテーションの施設でもありうるような、非常に多産な可能性を持っている。

次に、それが90年代に至って、来るべき複合的な文化の担い手へと変貌しつつあることを、ドイツ、スイス、日本の事例を紹介しながら論じる。ここでは、今、同時代的に起こっている科学研究者、セラピスト、アーティスト、デザイナーによるさまざまな試みが紹介される。

最後に、この「観客参加型の展示物(施設)」を主な触媒として、21世紀になって私たちが、本当に、芸術・科学・福祉の重なりあう新しい複合的な文化を生みだすことができるかどうかの展望と、そのために何をすべきかを提案する。

 

 

 

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