日本財団 図書館


■ 発  表 ■

 

高齢化社会における痴呆症ケアの課題

オーストラリアの経験

 

オーストラリア/イラワラ地域健康サービスセンター地域部長、ニューサウスウェールズ大学医学部講師

クリストファー・パウロス

Dr.Christopher Poulos

 

私が勤務していますシドニー南部イラワラにあるヘルス地区は、ポート・キャンベラの重工業地域、ウロンゴンの主要都市と、農村および沿岸地域を統合した所です。また、イラワラの人口は約34万人(オーストラリアの全人口1,800万人)です。本日は、オーストラリアの高齢化社会の概略について述べたいと思いますが、まず人口統計的な動向について紹介し、ついでオーストラリアの高齢者ケアに対する政策がいかにして、長期にわたる高齢者のケア・ニーズに対応しようとしてきたか、また高齢者ケアアセスメント・チームの役割と機能とはなにかについて述べたいと思います。さらに、痴呆患者の行動管理に取り組むパイロット・プログラムについて触れるとともに、最後に現在の政策の動向について簡単に説明をしたいと考えています。

 

人口統計的変化

日本の人口は、オーストラリアの人口よりははるかに多いのですが、65歳以上の人口比、平均寿命、GDPに占める医療支出などの点で2国間には多くの共通点があります。1970年代の半ば、65歳以上のオーストラリア人の人口は全体のわずか9%でした。この数字が1996年までに12%に増加し、西暦2016年までには16%になると予想されています。オーストラリアでは、高齢者人口の年齢構造も変化し、1976年では高齢者6人中80歳以上は1人という状況でしたが、1996年ではその比率は5人中1人となり、2016年では4人中1人になるとされています。

人口の高齢化は、痴呆症のような加齢による病気の有病率の増加を伴っています。痴呆症の原因となる病気はさまざまで、オーストラリアではアルツハイマー病が約50%を占めています。その他、脳血管性痴呆が約20%、また、アルツハイマー病と脳血管性痴呆の合併による痴呆症が20%です。そして、残りの10%が、あまりみられないタイプの痴呆症となっています。

痴呆症とは、記憶、方向性、言語、判断力、計画性等の欠如をはじめとする複数の高度機能障害が発生する病気をいいます。これらの認知機能障害は、予測困難な社会的行動、やる気のなさや感情の欠如などを伴うことが多々見受けられます。このため、これらの障害をもつ痴呆高齢者のケアは多くは24時間の作業となります。

オーストラリアでは、多くの痴呆患者に対する民間の支援ネットワーク組織が確立していません。NSW州のアセスメント・サービスに紹介されている痴呆患者の約3分の1は1人暮らしらしです。給食サービス、個人的ケアなどの公的サービスの多くは、勤務時間のなかで行われているため、痴呆患者のニーズには応えていないことが多いのが現状です。

したがってわれわれの課題は、痴呆患者の急速な増加に対応するため、効果的なアセスメントと適切で効率的なサービスを提供することにより、在宅ケアと施設ケアのモデルを開発することです。

 

022-1.gif

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION