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を今度は洗濯に使うとか、水が貴重品なんです。でも、僕ら8日間往復する間、川が縦横に流れているんです。川のは、ちにテントを張ります。モンゴルの川ですから、何も汚い物は流れてきませんから、僕らはそこで顔を洗ったり、それで炊事したり、水浴びしたりするんです。なぜモンゴル人は、川から遠く離れたところにゲルをつくるかそれが分からなかった。

通訳に聞いても分からんと言う。それで、ウランバートルに帰ってきまして、あそこは世界で唯一魚を食べない民族なんです。魚のような不確かな食糧というのには依存せずに、ずっとあそこの場合は、冬は干し肉で過ごすとかという生活をやって、魚を食べない民族なのです。従って、釣りもありません。だから、イトウがたくさん釣れたんです。ところが最近、海外留学してきた連中が釣りのクラブを作ろうと、魚は釣れますから。モンゴルの美術大学の学長はまだ35歳くらいの若い学長ですが、ヨーロッパから帰ってきまして、ルアーフィッシングをやってきまして、ルアーのクラブを作る。僕が日本の釣りクラブのリーダーだと聞きまして、釣りクラブのノウハウを教えてほしいと。一晩一緒に会食したんです。この学長に聞いてみたら分かるんじゃないかと聞きました。

いとも簡単に「チンギスハーン(中国ではジンギスカン)の掟ですよ」と。750年前にジンギスカンが世界で冠たるヨーロッパ・アジアの巨大なモンゴル帝国をつくったとき、その中の掟の一つが「ゲルは川から500メートル以上離してつくること」、その750年前に決められた掟を、誰も見ないモナンゴルの大草原で、いくら不便でもたった一人の違反者もなく守ってます。

その心は、500メートル離れていたら、いくら汚水を流しても500メートルの草原で浄化される。だから、川は決して汚れない。モンゴルという、旭鷲山が活躍してまして、日本でも身近に語られます、ロシアの最も優等生の共産主義国家だったのです。ロシアのやり方というのは一つの衛星国に何もかもつくらしたんではだめになるんで、モンゴルではマッチだけというふうに、生活必需品でも全く今までタバコもビールも無いんです。つくらせなかったんです。

今度独立したらそれが不足しまして、我々が信じられないようなものが無くて、新聞も半年くらい休刊していたんです。紙が無いために、そういうふうな貧しい、世界でも今最も貧しい生活をしながら、川を汚さないために、モンゴルのすべての人がいくら不便でも、ゲルは川から500メートル以上離すことを今も続けている。僕は、大ショックを受けたのです。

日本人は何やろかって。モンゴルに比べたらはるかに知識は発達している。そして、日本人というのは、昔最も自然と親しんで自然を大切にしてきた人種なんだ。お茶とかお花とか生け花とか、あるいは和歌とか俳句とか、本の家とか障子とかそういうような本来的に自然にかえる。自然と最も付き合ってきた日本人が一体、いつのまにこんな風になったのか。モンゴルの人のように、今なんぼ苦労していても750年前の掟、それは川を汚さないというその1点で、だれも見てないところで続けている。世界にはこういう人たちがたくさんいるんです。

先ほどのニュージーランドもしかり、日本人は自分の家はきれいにしても、外に行ったら平気でタバコもポイ捨てをやる、やはりこれから環境というのは日本だけの問題でなくて、これは地球そのものの環境なんです。

こんどの京都の環境会議で、日本がCO2の5%ほどの削減、それはやっぱり日本のエゴだと思います。このままいったら、地球が大変になるというときに、我々自身の生活を見直さずにクリアしようとしていること自体が、僕らは間違っているじゃないか。我々はもう一ぺん我々の暮らし、皆さん方が取り組んでいらっしゃるごみの問題・リサイクルの問題、それも我々の生きざまそのものを変えていくという反省にたたないと、日本という国は世界の常識が通用しない、日本の常識は世界の非常識になってしまいかねない。僕らはそんなふうな気がしております。

本当にこれからごみの問題。じゃあ、海を埋め立てなかったらどうするんだと、どうなるか。山や島に捨てたら、豊島みたいになるやないかと。

その先の基本的なところでぼくらは、日本の構造を変えていかなきゃだめだと思います。自動車にしても、そんなに車検を厳しくしなくてもいいじゃない、もっと車検が緩やかになれば、車は長く使えます。クラッシックカーを探しにオーストラリアかニュージーランドへ行けばなんぼでもある。

ボンネットバスを、僕らは向こうで釣りに使いました。「このバス、ボンネットバスで古いね」というと、「まだこのバス25年しか使ってません」という。僕らにしてみたら25年も前のバスなど日本には存在しません。彼らにしてみたら、まだこれ25年しか使っていない。そういうふうな生きざま、そういうふうなことが世界では、それが大勢になっている。僕は172回も世界中をほっつき歩きまして、魚釣りに行ったおかげで日本人が、日本人の常識が世界常識だと、いつのまにか錯覚しておることに気がつきました。

 

 

 

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