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というのはこの鮮魚の流れの中のことで、活魚が出始めてから、新しい方ががいいというのが神話になりつつあります。

・うま味

締めてから死後硬直が起こるまで臭みは出て来ません。逆に生理活性反応が起こり、自分の蛋白質を分解してアミノ酸を作る、あるいは核酸物質を分解してイノシン酸を作り、うま味成分が出て来るのです。だから締めてから時間が経つほどおいしくなりますが、硬直が起きると腐敗が始まって味がストーンと落ちます。そこで活魚は死後硬直の直前が一番うまいということになります。うま味は餌によるので、明石ダイのようにその海域の色々な種類の餌を食べているものほど味に深みがあるのです。

しかし、養殖のタイやヒラメの餌はほとんどがイワシなので、餌のアミノ酸が出てイワシの味がしますが、締めてすぐなら蛋白質のままで味は分かりません。しかも、客は魚は新しい方がいい、コリコりして水っぽい味をいいと思っているので、活魚ブームが起こりました。これは養殖魚を巧みに売り込む一つの戦略に乗せられたものです。ただ、養殖魚といってもイワシ以外にエビやオキアミ、貝、イカなど非常に多様な餌を食べているものはうま味が出て来ます。

・昼網

明石の昼網とは、朝捕ってきたものを昼セリにかけ、セリ落とした仲買人が自分の水槽の中に海水を汲み上げて、24時間様子を見ます。その間に腹の中のものが全部消化されて糞になり、餌の臭みが無くなり、筋肉疲労もストレスもある程度収まります。収まりがついたところを締めるのです。捕ってきてすぐの魚を締めると餌の臭いが身に移り、臭みとして嫌われるからです。

仲買人は、あの料理屋はどういう料理に使う、お客は何時頃に召し上がる、ということを見定めて魚を締めるタイミングを計るのです。明石の立地条件は京都の祇園まで届くのに一番理想的な間合いだと言われています。

・漁師の捕り方にかかる活け越し

明石海峡周辺にいる2000人の専業漁師のうち約200人は一本釣りやタコ壷漁といった伝統的な漁法を続けています。あの漁師が捕ってきた魚は生け簀の中でちゃんと生きると信用を持たれると漁師の名前が付いて流通するようになります。ところが、この活け越しという技なり意味合いというのはまだ全国的にあまり普及していません。その点がきっと明石の魚を一段とうまくしている要因だと思います。

・活け越した魚の見分け方

白身の刺し身でありながら半分透き通ったような透明感があり、虹色の輝きが出てるものは、活け越しをしています。活け越しをせずに締めたものは白濁りなので、違いがでます。

夏場に捕れる丸アジに一番差が出ます。魚の棚では刺身にできるアジが1匹100円、200円で売っている店から1000円で売っている店まであります。前者はその日に釣ったものをすぐに出してきており、後者は前の日に釣ったものを1日船で活け越し、締めて出しているのです。明石に来て納得のいくものを食べたい方は1000円の方を平気で買っていきます。明石の魚のおいしさを支えているのは、素材として一流であること、そのうまさを引き出すための技術がすぐれていること、そして、それにお金を払ってくれる地域の消費者がいるということです。この3つの要素が重なって明石ものが私にとっても日本一であり続けている理由であり、また、それが漁業を支える力にもなっています。

 

●魚のおいしい食べ方

キュウセンという種類のベラは明石では人気があります。独特の磯臭さと身の柔らかさがあって料理しにくく、東京ではほとんど使いませんが、1、2日活け越しすると、磯臭さが収まり身も締まります。20cmを越える青ベラだと刺身にするとキスよりおいしい。

関東では江戸前のお寿司屋さんはアナゴを煮アナゴにします。これは筒漁という取り方すなわちネズミ取りの方式でウナギを捕るような筒の中に餌を入れておびき寄せ、餌を食わせて捕まえます。この方法だと魚に餌の匂いが移ってしまいます。だから煮アナゴという形でだし汁で味を付け

 

 

 

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