日本財団 図書館


●人工ビーチと生態系の関係

自然の砂浜には、ゴカイ、二枚貝、ナマコなど色々な生き物がいます。彼らは砂浜のをメンテナンスしてくれる重要な生物で、人工ビーチに砂を入れただけでは、ただの砂場で、どんどん水質は悪化します。特にナマコは、海をきれいにしてくれる重要な役割を持っています。海底に積もった有機物を泥と一緒に食べ、その中の有機物の50%を消化し、残りを吐き出す。これを際限なく繰り返していくとどんどん砂がきれいになります。サイパン、グアムのビーチが美しく保たれているのは、ナマコがたくさんいるお陰です。

見老津駅の水槽にも展示生物以外に二枚貝、カエルウオ、ハゼなどをたくさん入れています。カエルウオという魚は珪藻(コケ)を食べてくれるので、人間が手を加えなくても掃除ができるのです。人工ビーチを作る際は必ず生き物も一緒に移そうという発想をするためには、アドバイザーとして生物のスペシャリストが必要です。できれば水族館などで働き対費用効果を考えられる人材が望ましいでしよう。

 

●海外の海辺事情

海外の海辺リゾートでは、日本でも参考になる自然を生かす「なぎさ」の創造が行われています。

【パラオ】

ミクロネシアのパラオ諸島は、戦前は南洋庁が置かれ日本の委任統治領の中心地でした。数多く残る戦跡は重要な観光資源として、手を付けずそのまま残しています。大小約400の島がアウ卜リーフという大きなサンゴ礁に固まれて散らばっているため、パラオ諸島だけでひとつの生態系ができ上がっています。

あるリゾートホテルでは、人工ビーチを造ったため、サンゴ礁は全滅し、年々ヘドロ化してきています。サンゴ礁の縁に建てられたホテルも人工ビーチを造っため潮の流れが変わりましたが、海が豊かなお陰でいつの間にか貝が棲みつくようになりました。日本人の手作りリゾート、カープアイランドは必要最小限のものしか造っていません。

【ヤップ】

ヤップでは、木、石、海岸、建物などすべてに所有権があります。共同のもの・村のものはありますが、村の長(酋長)の許可がないと使えません。勝手に何かができないお陰で、海岸が昔のままに保たれています。ヤップは4つの島でできていますが、島と島をつなぐ橋は丸木橋で車は通れません。不便ですが排気ガスで汚れないなどの利点があり、良い伝統として残そうとしています。しかし、海岸の保全、動物保護、村の伝統を守るにはお金が必要なので、そのためには影響を及ぼさない範囲で島の資源を利用しようと考えています。

【フィリピン・サンタイザベル】

鳥羽水族館のジュゴン調査で見つけた無人島で、そこをジュゴンのサンクチュアリにしようとフィリピンとの合弁企業を作り、リゾート開発を行いました。マングロープの川の周辺は、リゾートを造る時点で自然保護区に指定してもらい、リゾートの周りは禁漁区になりました。自然にはできるだけ手を付けないでおこうという趣旨で、船着き場は木で作った桟橋だけ、建物も自然の岩場などを利用して建てられています。ビーチヘはパラソル持参で普段は何もありません。自然に優しいリゾートというポリシーを保っています。

120名の従業員すべてが株主で、株の持てない人はグループを作り、1グループで1株持たせています。地元の人に自分たちのための企業だという認識が持たれ、パラワン州やフィリピン政府が周辺への公共投資を行い、保護区への関心を高めるなど盛んになってきています。

【タヒチ・ボラボラ島】

「ラグナリウム」ラグーンとアクアリウムを足した造語で、天然水族館という名前が付いています。メインの建物は休憩所のみで、海は流れを阻害しないように竹と網で仕切られ、「ウミガメ」「エイ」「サメ」とエリアごとに囲いの中で飼われています。海に自然のままで動物を飼っている状態で、普通の子供たちでも動物に触れあうことができます。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION