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5. まとめ

 

本研究は、大都市圏のラッシュ時の列車遅延防止と混雑度の緩和を、車両や信号等の設備を大規模に改善するのではなく、乗客誘導によって達成できないかを検討したものである。乗客誘導について、これまで定性的に議論されたことはあるが、実施の基準や効果は必ずしも明確にされていたわけではない。また、来客誘導のための案内装置について具体的に検討された例もあまりない。そこで、通常でも1分から2分の遅延が発生している営団地下鉄東西線の中野方面行を対象として、現実の乗降状況と列車運行状況に基づいて来客誘導の効果をシミュレーション実験により定量的に試算した。さらに、乗客誘導案内装置の機能および構成を検討したうえで、40インチのプラズマディスプレイを用いてこれを試作し、一般の鉄道利用者を対象としてアンケート調査による評価実験を行った。

 

平成8年度には、西葛西、茅場町、東陽町において朝ラッシュ時の乗降状況をビデオ撮影し、車両毎の混雑度、降車人数、乗車人数を測定した。そして、特定の列車や車両に対する乗客集中および遅延発生の実態を調査し、輸送力と旅客需要の均衡がとれておらず、遅延が発生していることを確認した。さらに、これらの測定データに基づいて、乗降時間を計算するための乗客流シミュレータを開発し、乗客誘導により停車時分の増大が抑制可能であることを確認した。

 

平成9年度は、まず乗車人数と乗車可能人数を用いて乗客誘導の対象となる扉を決定すれば、4人〜10人程度の乗客誘導により少なくとも3秒〜8秒の停車時分短縮が見込まれる列車が毎日3本あることを実証できた。さらに、続行列車の機外停止防止については毎日1本の列車で少なくとも3秒〜7秒の短縮効果が、先行列車への乗客誘導による続行列車の停車時分短縮についても毎日1本の列車で少なくとも4秒の短縮効果が見込まれることがわかった。一方、試作した乗客誘導案内装置に対するアンケート調査からは65%の乗客が同一列車内で混雑度の低い車両へ、41%の来客が混雑度の低い次列車へ移動する可能性があるという結果が得られた。

 

本研究では、実測されたデータに基づいて乗客誘導の実施基準と効果を定量的に示すとともに、乗客誘導案内装置を試作して評価した。この結果を踏まえて、乗客誘導が実路線において試行され、より実証的に評価されることが望まれる。

 

 

 

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