日本財団 図書館


国際フィールドワークフェローシップを終えて

 

内藤 美由記(熊本大学医学部5年)

国内外を問わず、保健衛生行政についてもっと詳しく知りたいというのが、私の応募動機であった。公衆衛生学で学ぶだけではどこか漠然としていたからであった。

3月10日、国立国際医療センターにて研修を受けてみて、自分がいかに何も知らずに、また知らないことを知ろうと努力しないで今まで過ごしてきたかに気づき、この研修の内容の大きさを再認識し始めた。とはいうものの、時すでに遅し、であるので知らないならそれなりに精一杯吸収して来ようと心に決めた。

国内研修では、主に日本の国際協力について様々な知識を得た。中でも、どうして国際協力が必要なのか、ということ、また国際協力でも国際援助でも、提供する側が良いと判断するだけでは意味がなく、例えば気候や風土といった自然,文化や宗教,生活状態など相手国のことを十分理解した上でその国が必要としているものを提供するということ、そして最終的には自分達でできるようにすることを目標にする、といった話が興味深かった。実際、フィリピンに行き、改めて気づいた。日本で使われている医療器具を提供したとしても、役に立つところはほとんどないであろう。使いこなせる技術や、それを管理・維持していくことができるかどうか等が大事なのである。また、家族計画を進めるにしても、宗教や生活のことを考えると人々に理解させ浸透させていくには時間がかかるであろう。果たして、何が幸せで、その人にあるいはその国のためになるのか自分の価値観でつい物事を判断してしまいがちな私にとっては非常に難しいことのように思われた。

その他、日本の国際協力の中で、具体的にハンセン病と結核をとりあげ、その現状について学んだ。ハンセン病の歴史が特に印象的で、日本ではらい予防法が廃止されて1年になるが、ハンセン病およびその患者に対する差別や偏見が完全にはなくなっていないのではないかと思われた。完全になくすためには、より多くの人々が正しい知識を持つこと、そのためにも知識を広める人が必要であろう。この必要性はフィリピンでも同じであった。

国外研修ではさらにフィリピンにおける保健行政の組織機構やJICAプロジェクトの現状について学び、実際それぞれの機関、加えてWHO,フィリピン大学および大学病院を訪問、見学するとともにその内容についてうかがった。自分の目で見、話を聞くことができたのが良かった。どの方々も皆、熱心にかつ丁寧に説明して下さり、本当に感謝している。仕事の内容だけでなく、国際協力に携わるのに必要なこと(身につけるべき事)は何か、という話まで聞くことができたのも良かった。後は、患者さんや、そこで生活している人々の話を聞く機会があれば、もっと良かったと思う。

国外研修を受けてみて、自分の国について更に詳しく勉強しようと思った。詳しく知れば、フィリピンとの比較ができるし、またフィリピンやその他の諸外国、WHOなど国際機関との関係についても、より深い理解が得られるであろう。

このフィールドワークを通じて、学んだことといえば、テーマである。国際医療の現状や課題,フィリピンの保健医療事情,国内外のハンセン病問題,についてはもちろんである。これらに加えて、?具体的な目的を持ち、積極的に自分から行動すること(漢然と考えているだけでは、ほとんど進歩がないということがよく分かった),?常に広い視野を持つこと,これに関係すると思うが、将来を決める前にまず多くの情報を集めること(例えば、保健行政や地域医療に携わろうと考えるなら、まず国内のいろいろな地域を、次に国外のいろいろな地域を見てからにする),?自分の専門分野を持つこと,?語学力を身につけること―これは今回、身にしみてわかった。共通の言語というものは、相手の言うことを理解し、自分の考えを主張する、意志の疎通をはかるために欠かせない―,以上、初歩的ではあるが、非常に大事なことを学んだ。

その他、学ぶというより得たものとしては、多くの人々との出会いであろう。国内外を問わず様々な現場の方々はもちろんのこと、国内の、そしてフィリピンの同じ分野に興味を持つ多くの学生と出会い、それぞれの考え方を聞けたことは私にとって良い刺激となった。

将来、何らかの形で保健行政に関わっていきたいと思いつつも接点を見い出せずにいた。このフィールドワークですべてがわかったというわけでは決してなく、どちらかといえばさらに疑問が増えたのだが、それらに対してどうすれば良いのか、その足がかりはつかめたように思う。今回学んだことを生かせるように、いろいろと模索しながら、今後、有意義に過ごしていきたい。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION