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?. カンボジアのメコン住血吸虫症の概説

 

〈歴史的背景〉

カンボジアにおける最初の人体症例はAudebound et al.,によって1968年に発見された。患者は12歳のベトナム人の少女でクラチエ省の省都クラチエのメコン川に住む船上生活者であった。彼女はクラチエで生まれ、育ち、家を離れたことはなかったという。プノンペンの病院に入院したとき、彼女は4歳に始まったという腸管の不定期出血と粘血便による衰弱が著しく、低体重、肝脾の肥大、腹水の貯留などがみられた。X線によって門脈血圧の亢進が確認され、脾摘手術が行われた。小腸壁と腹膜表面に結節があり、それが完熟した住血吸虫卵を取り囲む肉芽腫であることが確認され、住血吸虫症と診断された。このようにして、カンボジアではクラチエのメコン川に船上生活をするベトナム人の本症感染が注目され、さらに、WHO(1968-1969年)、保健省(1968年)、パスツール研究所(1968年)などによる調査によって、カンボジア北東部メコン川沿岸域のクラチエから上流のラオス国境までの地域にメコン住血吸虫症が蔓延していることがしだいに明らかにされていった。

ところが、1970年3月のロン・ノル将軍によるクーデター以後はポル・ポトの台頭からベトナムによる侵攻、内戦が続き、最近まで本症の調査や対策はほとんど手つかずのまま過ぎた。

 

〈最近の状況〉

本格的な調査とコントロールはMedecins Sans Frontieres(MSF)(国境なき医師団)の手によって1989年に始まった。1995年12月、国立マラリアセンター(Centre National deMalariologie,CNM)は保健省(MOH)から住血吸虫症の全国的コントロール計画を立てその管理運営を行うよう勧告され、センターの副所長がプログラムマネージャーとして指名された。このMOHの全国的コントロール計画樹立の意図はMSFがクラチエ省で行った予備調査の結果に基づいて決定されたものである。

1994年以降にMSFがクラチエ地区の学童を対象とした疫学調査(Kato-Katz l回法)の結果、感染率は7.7%から70.3%で、調査村落の39.1%が50%以上の感染率を示した。重症例では顕著な発育障害、性的発育障害、重大な脾腫大、腹水、臍周囲および食道静脈瘤が見られた。

1995年と1996年の2回、mass treatmentを実施し、39,000人以上がプラジカンテルの投与を受け、感染率は治療前の平均47.2%から1年後に平均19.1%、2年後に平均14.1%に低下した。

尿路系住血吸虫症(ビルハルツ住血吸虫症)の調査用に開発されたRapid Assessment Method(RAM)で予備調査を実施し、さらに糞便検査を行い、Stung Treng省のSesan、

SekongおよびSireporkの各河川沿いに流行地の存在が示されたという。また、Kampong Chem省にも小さな流行地が発見されたという。しかし、中間宿主貝は見出されておらず、それぞれの地域で真の流行と伝搬が存在するかについては疑わしい。

 

 

 

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