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第2が党組織や官僚機構などの旧社会主義時代の遺制の残存とその影響の問題である。第3が制度設計における理想の追求と現実の制約との乖離の問題である。そして、第4が国ごとに異なる地理的社会的条件である。

体制移行諸国の地方制度を考察するに当たっては、これらの点を考慮すべきであるが、本稿では、次章以下の本年度の調査報告の序論として、そのいくつかに触れておくことにしたい。

 

2 体制移行諸国における集権と分権

 

旧社会主義諸国における体制の根本的な転換は、いうまでもなくそれぞれの国の国家の政治・経済の基本的な部分に深刻な影響を及ぼし、新たな課題を生み出さずにはおかない。すなわち、体制の転換過程では、それまでの中央集権的な締め付けのタガがゆるむことから、それまで沈潜していた民族問題や地域間格差などの問題が噴出し、それらを先鋭化させる契機となる。場合によってはそのことが地域間対立を惹起し、旧ソ連や旧ユーゴスラビア、チェコ・スロバキアにみられたように、国家の分裂を招くことになりかねない。このような分裂の危機には、結果として分裂に至らなかった国々でも直面したし、それは今後も地方制度の内容や運用如何によってはいつでも起こりうるのである。

また、前述のように、旧体制崩壊の後、新たに進むべき方向の模索とそれをめぐる闘争が展開されることが多いが、そのような闘争が常に決着をみ、その結果として直ちに新しい理念や原理に基づいて新生国家に相応しい制度が作られるわけではない。新たな制度が定着するまでには、ある一定レベルの行政活動が暫定的な制度によって引き継がれるとともに、試行錯誤と学習を重ねながら新しい制度が構築されていくのが一般的である。構築される地方制度には、暫定期間の試行錯誤と学習の結果のみならず、その国の歴史的状況、すなわち、国家しての歴史の有無や時間的長さ、転換期における民主主義に対する期待度なども反映され、それに応じて国によって微妙に異なる制度が形成されているのである。

たとえば、旧ソ連の一部分であった地域が独立した場合のように、国民国家としての歴史の浅い国々では、nation building(一体性をもった国家の建設ないしは国民統合)が、喫緊の課題となることはいうまでもない。こうした課題の存在は、当然、地方制度の構築において、分権よりも集権に向かうインセンティブとして働くことになろう。今年度の調査研究の対象国でいえば、旧ソ連の崩壊により史上初めて独立を達成したばかりの新興国ウクライナの地方制度は、旧ソ連時代は同じ国であったロシア連邦のそれよりもはるかに集権的ということができるが、その理由の一つが、こうした点に求められるだろう。また、昨年度の対象国であったポーランドの

 

 

 

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