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第1章 体制移行諸国における地方制度の特質-今年度調査から-

 

1 はじめに

 

いずれの国においても、その国民の生活を維持向上させるために、国内各地の事情に応じて適切な行政サービスを供給しなければならず、そのために各地域における行政制度、とりわけ地方制度が重要であることはいうまでもない。とくに、それは、地域の人々の多様な生活に密接に関わっているという点において、また、多様な地域社会を統合してひとつの国家として成り立たせるという点において、重要である。

昨年度(1997年度)の報告書で述べたロシア連邦、ポーランドはもとより、今年度新たに調査対象国とした、ウクライナ、ハンガリーの地方制度においても、その構築に当たっては、国内の多様な状況に応じてさまざまな工夫がなされている。しかも、それらは、体制転換以後も、状況の変化に応じて徐々にではあるが再構成されている。

本調査研究で取り上げた「体制移行諸国」は、国家の基本システムの大規模な転換を実施しようとしている国々である。しかし、これらの国々は、体制の転換という点では共通しているが、転換後の改革のあり様は、その改革が漸進的なものであれ、あるいは急激なものであれ、歴史的な背景はもとより、社会経済および政治状況によって異なる経路をたどってきている。

このように地方制度は、その国の政治情勢等に規定されているが、現実の地方制度を設計するに当たっては、着目すべき多様な論点が存在する。これらの論点として、昨年度の報告書では、次のようなものを挙げた。

すなわち、まず国家形成の観点からは、第1に地方制度の構造と単位(階層制、規模、団体数、広域団体の代表制)、第2に事務の配分(各政府間の事務分担)、第3が首長と議会(選出方法、役割、首長と議会の関係)、第4が地方財政(税財源の配分、規模)、第5が公務員制度(国地方の区分、公務員数)、そして第6が都市と農村(制度の相違)のあり方である。もちろん、これらの論点は地方制度と国家の関係における論点でもあり、その意味では、国家統合と経済発展の両面に配慮する形で地方制度が設計されなければならないことはいうまでもない。

次に、体制移行と制度改革という観点からは、次のような論点に着目すべきである。第1が体制移行に伴う必然的な課題として、旧体制の崩壊の後、新たに進むべき方向をめぐっての模索とそれをめぐってほぼ常に展開される闘争の問題である。

 

 

 

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