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り互いの言葉の響き合いから創発する思いつきとその練り上げである。しかし、専門や経験を異にする人たちがこうした話し合いを展開するのは易しいことではない。互いの話を理解するのに困難がつきまとう。また、自らの専門知識や経験知識を新しいアイディアのために組み替えることにも困難がつきまとう。こうした困難を克服しながら、互いの言葉を響かせ合って価値あるものの創出をめざす、しなやかな創造的・生産的コミュニケーションが《協働的コミュニケーション》である。また、そのコミュニケーションに支えられた共同作業が世にいう《協働》である。協働的コミュニケーションがうまくいくと、個のアイディアの総和以上の価値をもつたアイディアが創出される。しかし、仮にこのような魅力ある改革案がつくられたとしても、それを実行する人たちにすんなり受け入れられるとは限らない。この人たちも、既存のやり方やそれを支える慣習的思考様式の改編をせまられるが、そのことに反発や抵抗をしがちである。この反発や抵抗にはむりからぬところがある。というのは、改革案には業務の細部まで書き込まれているわけではないし、すべてが実験済みというわけでもない。そのため、新しい業務には試行錯誤によって克服しなければならない困難がつきまとう。ここでも《協働》が必要になってくる。既存の固定観念や思考様式を組み替えながら、新しい意味・価値をもったアイディアを協力して創出するコミュニケーションの協働が協働の核心である。

協働的コミュニケーションは、協力的姿勢と柔軟性をもった少人数の人たちによるしなやかな話し合いが、理想の姿である。しかし、現実にこのような理想条件が整うのは難しい。小規模自治体の成功例は、優れたリーダーの存在と小規模性の結び付きが、理想との乖離を埋めたと考えられる。関与する人間が最初から比較的小規模であることが、当初から少人数による徹底した話し合いを可能にした。そして、リーダーの優れた資質と熱意がコミュニケーションを協働的に展開させたと考えられる。たんに小規模であることが有利にはたらくとは限らない。相互の顔がよくみえるだけに、既得権益の変更が難しい場合すらある。優れたリーダーの存在と小規模性との結び付きがコミュニケーションを創造的・生産的にしたことが重要だったのである。結局、組織を動かし改編するのは人間である。また、既存組織に拘泥して改革に抵抗するのも人間である。徹底的な話し合いによって、互いの既存のやり方や考え方を再編成しながら、魅力とやりがいがある仕事として事業を編成できたこと、これが肝心な点である。

 

 

 

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