第1章 研究の概要
1.1 研究目的
海面の波浪、風、海流などの海域情報を面的に把握することは、船舶の安全な航行や効率的な海難救助といった観点から重要である。そのような海況の情報源として、現在のところ船舶や海洋プイあるいは観測衛星などの海洋観測データが利用されている。しかし、船舶や観測ブイの使用には莫大な経費がかかり、さらに、それらはあくまで点のデータであるので、任意の海域の情報は気象情報などを参考にしてそこから推定するしかない。観測衛星による場合には、面的に海況データを把握することができるが、雲や太陽光などの障害の影響を受けやすく、必ずしも航海に必要とする海洋データは充分に取得されているとはいえない現状にある。
それに対し、現在運用中の地球観測衛星ふよう1号(JERS−1)、European Remote Sensing Satellit−1(ERS−1)やRADARSATなどに搭載されている合成開口レーダ(Synthetic Aperture Radar:SAR)は、
・昼夜間わずに観測を行える
・雲や降雨などを透過して観測できる(全天候性)
・70〜500km四方といった広域を面的に観測することが可能である
などの特徴を持っており、陸域では高精度の大縮尺地形図の作成や微小断層の発見などの研究が進められている。また、SARの海洋への利用としては、海面の油汚染の監視や航空機搭載SARによる遭難船の発見などの捜索実験が現在試みられている。しかし、現在のところ船舶の安全航行のために必要な海域情報を得る手法は実用段階には至っていない。
そこで、本事業では、SARによる波浪、風、海流、海氷などの海域情報を抽出する解析手法の開発・有効性を検証することにより、新しいセンサによる高能率な海洋観測手法の確立を試み、海難の防止、航行船舶の安全などに寄与することを目的とするものである。