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はしがき

この報告書は、当研究所が昨年(平成8年)10月に実施した「将来あるべき人事管理を考えるための基礎調査−低成長期における企業の人事制度の抜本的見直しに関する調査研究−」の結果をとりまとめたものです。当研究所では、昭和52年創立以来、社会・経済の急激な変化に対応しつつ、「高齢化社会に相応しい人事管理制度とその移行過程についての調査研究」を一貫して実施してきており、今回の調査は、その第20次事業として行ったものです。
わが国経済は、バブル崩壊以降、経済企画庁の景気底入れ宣言の後も本格的な景気回復の明るい見通しは仲々見えて来ていない状況です。確かに平成8年度は、円安と超低金利の効果で企業収益の改善がなされたことはありますが、この先平成9年度に予定される消費税引き上げと緊縮財政政策のデフレ効果を乗り越えた後も、なおそれが確かなものとなることが今は何よりも期待されている次第です。
これは、資源が乏しく、加工貿易の付加価値で戦後営々と現在の高い生活水準を築き上げてきたわが国の産業が、一方で貿易依存度の高い米国における競合産業の活力の回復と、他方で途上国の追い上げによって、この十年来新しく厳しい段階に突入してきている中で、基本的にこれをどう切り抜けて行くかが問題だからです。そして、これはやはりこれからの国際環境の動向を踏まえて、これに対処するための国内の構造改革を積極的に行い、高コスト体質を改善していく外に道はない訳です。
現実には、生産現場では自動化と雇用調整が確実に進み、営業現場では本格的な効率化が進む勢いにあるし、また、流通・運輸等の高コスト分野では規制緩和が進行していて、これを業種間で見れば自動車、電機、情報通信関連の健闘と建設、不動産、金融の低迷等優劣が鮮明になるといった姿で、その方向での着実な合理化が進められている次第です。
そして、この局面における企業経営に共通した最重要テーマは、雇用と賃金ということになり、人事・労務部は−終戦後の企業再建と人員整理期に今をなぞらえる人もいるかもしれませんし、逆に高度成長期の大幅な成果配分と大量採用時代を楽だったと懐かしむ人もあるかもしれませんが−構造改革期特有の骨身を削って企業経営を背負う役割をば、ここ当分は、(不況下の超低金利と円安による一時的増益にリストラ努力が緩むことなく、)改革の実効性が確実になる日まで遂行してゆかなければならないご苦労な宿命にあるものと考えられます。そして、その意義はもちろん個々の企業でのそれを超えて国全体の期待に直結したものでもある訳です。
本調査は、以上のような認識の下に、企業がこのところ進めて来られた最新の人事制度、賃金制度の改定等の諸施策について、その現状と今後のあり方を把握することを目的としたものです。
この調査結果が、厳しい現状の下で人事管理の業務に努力されておられる企業及び公務部門の方々にとって、今後の施策を定める上でいささかなりともご参考になれば幸甚と考えております。
最後に、この調査は、財団法人日本船舶振興会(日本財団)の補助事業として実施されたものであり、同会の援助に対してここに深甚な謝意を表する次第です。
平成9年3月
財団法人 日本人事行政研究所
理事長 尾崎朝夷

 

 

 

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