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血圧、心胸郭比およびR波電位との関係

栃木県・自治医科大学地域医療学 井上和男・杉田義博・五十嵐正紘

要旨

本研究は血圧、胸部レントゲン写真上の心胸郭比(CTR)および心電図上V5誘導のR波高(RV5)との関係について調べたものである。高知県のへき地山村である大川村において、1981年から1990年にかけて延べ3,861人の住民が定期健康診断を受診し、CTRとRV5を測定した。その結果、男性および女性の両群において血圧、CTRそしてRV5の間に有意の単純相関があった。また交絡因子と考えられる年齢と肥満度(bodymassindex:BMI)で補正した偏相関分析を行った。その結果、偏相関では単純相関より相関係数は低下したものの、ほとんど全ての偏相関係数が有意であった。また偏相関では単純相関にみられた性差は縮小し、年齢と肥満が性差の交絡因子と考えられた。結果として、血圧とCTRおよびRV5は各々相関があると結論づけた。収縮期血圧は拡張期血圧に比べてCTRおよびRV5と強い相関を示し、前者がより心収縮力に関係していると考えた。

I.緒言

血圧は、心血管疾患や脳血管障害など動脈硬化性疾患の危険因子である。血圧は容易に測定することができ、日常の医療行為の中で基本的な測定項目として使われている。心胸郭比(CTR)は胸郭の横径に対する心陰影の最大横径の比と定義され、心臓のサイズを測定する基本的な方法として一般に使われている。胸部X線上の心拡大は心血管疾患、心不全、全体死亡率の危険因子とされている。また、CTRはそれだけで全死亡率を予測することができ、心不全の死亡率を評価する最適の方法の一つとされている。一方で、CTRは他の要因により影響を受けることも知られている。例えば、CTRと年齢には有意の相関があり、また加齢によって上昇し、さらに人種間での差異のあることも報告されている。

心電図上のR波は、心室の心筋の電気的興奮によるQRS波の中の陽性部分である。体表心電図におけるR波の振幅は理論上心内血液量によって影響を受けることが提唱され、これは“Brody効果”と呼ばれている。この現象はいくつかの研究によって裏づけられ、心電図における基本的な概念の一つとなっている。例えば、V5誘導のR波高(RV5)と左室径の直接的かつ動的な関係が発見されている。加えて、R波の増高を示す左室肥大は、心疾患の疾病率および死亡率の上昇と関係があることが示されている。一方、R波もまた様々な要因に影響される。心筋虚血、心臓の位置、QRS波の電気軸、左室と電極との距離などがR波の電位の変動を引き起こすと報告されている。
CTRとR波高は、各々胸部レントゲン写真と心電図から測定される心臓の所見である。以前から思われているようにCTRとR波高が心臓のサイズに

 

 

 

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