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地域在住高齢者の活動能力に関する検討−社会的生産機能の障害とその関連要因−

高知県・佐川町立高北国民健康保険 水関清
(元:愛媛県・広見町国民健康保険愛治診療所、明浜町国民健康保険狩江診療所)

要約

へき地診療所が設置されている愛媛県内7地区に居住する60歳以上の高齢者を対象として、社会的機能の障害とその関連要因について検討した。

社会的生活機能の内的構造は因子分析の結果から、身体的生活動作能力(以下、身体的ADL)、咀嚼会話能力、対外交渉能力、手段的日常生活動作能力(以下、手段的ADL)、知的能動性の順に階層性をなしていた。身体的ADLや咀嚼会話能力など階層的に低次の機能の障害は、老年期後期に至るまで現れ難かったが、知的能動性など高次の機能の障害は老年期早期から現れており、高齢者のADL障害の評価に当たっては、各ADL水準ごとの障害の有無を複合的に評価することが重要と考えられた。社会的生活機能の障害に対して影響を与えている因子の検討では、年齢が最も大きな影響因子であり、以下、同居状況、配偶者の有無の順であった。

以上より、今後の保健医療福祉計画の立案に当たっては、身体的ADL障害者へのサービス提供に加えて、より高次の社会的生活機能障害の有無にも配慮し、有障害者への積極的なサービス提供等を通じて、可能な限りその障害の進展を抑制する施策が望まれる。

はじめに

高齢者の心身の健康状態をみる上で、日常生活動作能力(Activities of DailyLiving;以下ADL)は重要な指標のひとつであり、高齢者の生活の質(Quality of Life)を規定する大きな要因のひとつでもある。しかしこれまで高齢者のADLの問題は、主としてリハビリテーション医学や社会福祉の領域において扱われ、日常生活において何らかの障害が認められる高齢者を主対象として論じられることが多かった。従ってADLの測定方法も、障害を有する高齢者の残存能力の評価や各種機能訓練の効果判定などの目標に適うように工夫が重ねられてきた。

障害を持つ高齢者用に開発されたADL測定法を、地域在住の高齢者全体に対象を拡げて活用することは、地域に潜在する障害老人を拾い上げる方法としては有効であるが、地域社会で生活する高齢者の活動能力評価に応用することには、慎重を期すべきと思われる。事実、筆者らがへき地診療所受診者を対象に、厚生省障害老人の日常生活自立度判定基準を用いて行った日常生活自立度に関する断面調査(1993年度)でも、対象の88%が日常生活はほぼ自立と判定された。しかしこのことは、地域在住高齢者の9割弱が食事や入浴等の基本的生活動作が可能なことを示しているに過ぎず、高齢者が地域社会で独立した生活を続けていくのに必要な活動能力の保持を必ずしも示すものではないと推察された。

地域社会で生活を営む高齢者の、より高次の活動能力はどの程度維持されており、その実態はどのよ

 

 

 

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