日本財団 図書館


ということが起こっているわけですから、「国際」ではなくて、おそらく「民際」という表現のほうが正しいと思います。一人の個人が外国に出かけていって、外国の事情を知る。一人の個人が外国から日本に来て、日本の事情を個別に見るということが無数に起こる。従来はこれを「国際」といっていたのですが、「国際」は国と国がつきあう外交上の問題です。ですから、おそらくこれは「民際」ということになると思うのです。そういう「民際」というものを支えているのが、旅行と観光の大きな意義であろうと思うのです。もはや外交官や、あるいは国際的といわれるような事業にのみ交流を託すのではなくて、おそらく人間の顔が見える「民際」という異文化、外国との接触の時代にきているだろうと思うのです。交流を促進し、あるいは異文化接触を支えているのが旅行であり、観光であるということになります。
私は、おそらくこれからは無数の外務省というものが各地に生まれるべき時代であり、われわれは無数の外交官となるのだと思うのです。それは観光や旅行という概念で捉えるのではなくて、異文化交流という観点で捉えられる。観光は、おそらくそういう異文化交流の非常に大きな、大事な要素であるというふうに思って間違いないだろうと思います。現在の、とくに日本人の海外旅行というのは、いろいろ問題を抱えているかと思いますが、まさにわれわれは直接外交をやっているのだと思います。それが成熟状態に達したときに、海外からのお客が増える。これはグランド・ツアーの歴史を見てもそうです。イギリス人はずっと海外旅行、つまり大陸旅行しかやらなかったので入国者より出国者が多かったのですが、それが飽和点に達する19世紀になりますと、イギリスには国際観光、外国からの観光客の頻度が増えるということが起こったのです。
海外旅行の隆盛は、おそらく海外からの日本への旅行の隆盛に実はつながるのだと思いますし、観光の意義は、そういう点での異文化交流を極めて大きく刺激する、日本にとって大事な基本的なことがらだと思います。
冒頭で、観光や旅行の、少しおとしめられたイメージというお話から始めましたが、旅行・観光は実に、個々人が外交官であるとの自信をもってやるべき作業ではないかという私自身の思いを最後に述べて、終わらせていただきたいと思います。どうもご静聴ありがとうございました。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION