日本財団 図書館


とは何か、従来の考えを変えていかなければならないことだろうと思います。私自身も海外に行ったときには必ず市場に行くとか、外国に行ったら一度散髪をしてみようとか、あるいは必ずスーパーに出かけるとか、カフェに行ってみようということがあります。そのように、自分自身の関心に合わせて行動をとる人たちが増えてきているという感じがします。この際、やはり観光資源の本質は何かということを考え直す必要があるだろうと思うのです。そういう観光というものの基本になる観光資源の考え方の、いわば観光資源パラダイムの転換というものも考えておかなければいけないというふうに思います。
4.旅行=観光の意義
これまで話してきたことから、旅行・観光の意義といいますか、私自身の「旅行ノススメ」の基本を最後にお話したいと思います。それは、旅行が「移動する好奇心」ということからして、やはり異文化接触の意義ということだろうと思うのです。異文化がぶつかり、接触するというそこに旅行の意義があるのだというふうに私は思うのです。横浜や神戸の歴史を考えてみたいと思うのですが、どちらも何の変哲もない漁村でした。百三十数年前まではまったくの一寒村であったところが、今、若者が行くファッショナブルな町となったのはなぜか。これは、外国人居留地になったからです。
神戸のほうは、はじめ兵庫という日本人がすでにつくりあげていた、かなり町的な空間を、外国人側が外国人に開放せよと要求したのです。横浜のほうは、できれば神奈川という東海道の宿場町のあるところに外国人の居留地をつくれと外国人側がいったのですが、日本側が拒否しまして、人工的に生まれたのが神戸と横浜というわけです。はじめは辺ぴな場所だった神戸や横浜が、なぜ急速に活気をもつ、立派な大きな都市になっていったのか。それは異文化が流入し、異文化の空気にふれ、異文化を見て目が洗練されていき、そして異文化を積極的に受け入れるという気分が非常に濃厚にあったからだと思うのです。神戸や横浜の住民は、居ながらにして異文化接触の海外旅行ができた。私は、おそらく旅行・観光旅行の意義というのは、異文化接触の頻度ということで捉えられると思います。これこそが旅行・観光旅行のいちばんの意義であろうと思うのです。
今、この瞬間に自分の家を離れて旅行している人たちというのは、おそらく世界中で数百万ではきかないと思います。飛行機で、空中に浮かんでいる人間だけでも数百万人いるだろうと思うのですが、そういう時代はこれまでありませんでした。そして、そういう旅行者のなかに日本人の数が増えている。今1,500万人以上の日本人が海外に毎年出かけるという。海外から来る人は少ないといいますが、それでも文明開化の頃に比べると大変な数が来るわけですから、私は、そういう形で世界中の異文化と接触して、観光と旅行でもって異文化のぶつかりあい、接触が頻繁に起こっている時代が現在であろうと思うのです。
初期のそういう行動を支えたのは、日本では先にあげた喜賓会なのですが、いまだに異文化接触をどこが担当しているかといえば、基本的に外務省がやっていると、われわれは思っているわけです。ところが外務省と旅行、あるいは旅行業というのはどう違うか。初期の喜賓会の活動であったように、実際は、これはなかなか分離できないようなところがあります。外務省の海外の出先機関に行きますと、文化担当というのがありまして、どういうことをやっているかというと、日本からやってきた人たちにその現地の情報サービスをやっています。
この仕事はいったい本当に外務省の仕事なのか。あるいは、これは旅行か観光サービスをしているのではないかと思われるようなこともあるのです。今まで外務省というような公営の仕事、国営の仕事と、旅行業という民間と民営の仕事が、あまりにも距離があるというか、別のような考え方をもっていた。そういう感覚で、われわれは受け取ってきたと思うのですが、おそらくこれは、もうそんなことではないだろうと思います。
むしろわれわれが各地で、例えば地方自治体などが国際交流課とかいろいろな課名をもって設けているところは、日本に無数の外務省が必要である、無数の外務省が生まれるべき時代だとの考えが期せずして存在しているからだと思うのです。従来は、それを国際交流課とか観光課と呼んでいたのですが、過去の日本の旅行および外交の成長の歴史を見ますと、どうやら旅行と外交・交流はそんなに違いのある作業ではないと思います。われわれは、実は観光や旅行のお手伝いをしているだけではなくて、異文化接触に対しての環境づくりという意味で、非常に大きな外交作業をやっているのではないかというふうに思い始めています。
このマス・ツーリズムの時代には、ほとんど市民と市民が直接にぶつかりあって情報を直接得る

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION