8年の立法措置の結果、現行法上、排他的経済水域・大陸棚の「海洋科学調査」に関して、日本の国内法令が適用されることは明確である。しかし、漁業法令や鉱業法等において罰則により裏打ちされた国内法令違反であるとか、海上保安官に対する公務執行妨害罪の適用であるとかいう場合と異なり、外国船舶によるわが国の排他的経済水域・大陸棚の調査活動に対して日本の行政機関(執行機関)が何らかの措置(事実行為)を行なうことについては、そもそも現行法上それが可能なのかという根本的な問題がある。
ここで一応想定されるのは、外国船舶の調査について、海上保安官が、海上保安庁法2条に規定される「法令の海上における励行」という職務に基づき、同法15条による具体的な措置を行なうことであろう。しかし、前にも述べたように、そもそも「海洋科学調査」を規律する国内法令が空白ではないのかという問題がある。以下、海上保安官が「海洋科学調査」について行政措置を講ずる場合の問題点について、若干検討を加える。
〔3−2〕国内法整備の問題点
それでは、外国船舶等による排他的経済水域・大陸棚における調査活動について、どのような形で国内法令を構築するべきであろうか。現状を前提にすれば、外国船に対する措置を行なう行政機関は、海上保安庁ないし海上保安官ということになる。そして、海上保安官が、外国船舶等に対して適正な「海洋科学調査」が行なわれているかをチェックするための措置を行なうことになろう。また、収集されたデータの審査、調査に用いられる機材等に対する規制といった措置が必要な場合もあろう。従ってここでの問題は、海上保安庁(海上保安官)による必要な措置の執行を根拠づける行政作用法の整備という点に集約されるであろう。
行政法学の視点からまず問題になるのは、外国船舶等の海洋調査に対する措置の法的仕組みが、行政機関による法執行活動(一種の実力行使)として、日本の行政法体系と整合するものとして構築されなければならないことである。村上暦造教授は、「海上における警察活動、すなわち法執行活動を構成する国内法の構造」に着目した比較法研究を通して、非常に重要な分析結果を導かれている(5)。村上教授は、アメリカの沿岸警備隊(United States Coast Guard)
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