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法ではその両者の優先順位や異なる見解を示した場合の調整方法などが規定されていないため、大統領と議会の間で政治的な対立が生じた場合もあった。

上下両院の議決のいずれが優先するかということは、小憲法上には明記されていない。ただし実際は、首相の任命権がセイムに限定されていることや、上院がセイムのなした議決を否決ないし修正した場合でもセイムはこれを過半数の票で覆すことができる(17条)ことから、実質的にはセイムの議決が優先されることとなっている。

 

ウ 内閣

内閣は行政全体を統括し、特に憲法や他の法令で大統領その他の機関の管轄とされていない事項については、全て内閣がその責任を負う(51条)。ただし首相は内閣の基本的な活動について、大統領に報告の義務を負う(38条)。また首相は閣僚人事の提案権を持つ(57条)が、外務・内務・国防の三閣僚の任命に関しては大統領との協議を行うこととなっている(61条)。この内外行政の権限の分担や主要三閣僚の任免権に関しても小憲法の規定には不明確な点があり、ワレサ前大統領と民主左派同盟・農民党連立内閣の左右共存(コアビタシヨン)の時期(1993年9月〜1995年10月)にはしばしば両者の間で対立が生じていた。

首相はまず大統領が指名権を持つが、その指名はセイムの過半数によって支持される必要がある(57条)。セイムの支持が得られない場合は、次はセイムが過半数の票によって首相を任命する(58条)。ここでセイムが首相を指名できない場合は、再度大統領(59条)、セイム(60条)と首相の指名権が移行し、それでもなお首相が指名されない場合には大統領は議会を解散するか、任期6ヵ月を限度とする暫定内閣を任命する(62条)。またセイムは過半数の賛成により内閣不信任案を可決することができるが、これは同時に新しい首相の任命を伴う必要があり(いわゆる「建設的不信任案」)、これがなされない場合大統領は議会を解散することができる(66条)。

 

(3)現在の経済状況

ポーランドでは、第二次世界大戦後初の非共産党系の首相となったマゾヴィエツキ内閣のバルツェロヴィッチ(L.Barcerowicz)蔵相が、急速な経済の市場化とインフレの抑制を目的とした、いわゆる「ショック療法」を実施したこともあり、一時は大幅な経済的後退を経験した。しかし1992年以降ポーランド経済は徐々に回復傾向をみせ、現在の民主左派同盟と農民党の連立政権の下で94年以降はGDP年5%以上の高度成長を達成している(3)。失業率やインフレ率はまだ高い水準にあり、国内における貧富の差も拡大しつつあるといった問題を抱えてはいるものの、国内の経済は活況を示し、投資・個人消費とも順調な回復基調を示している。今回の現地調査の際にも、

 

 

 

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