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その権威において統治している。

モスクワ市は、1995年6月に市憲章を採択している(30)。それによると、モスクワは、連邦の構成主体にして、地方自治体であることとされている。地方自治機関は、国家権カ機関の体系には含めないとする憲法の規定とどう調整がなされているか、納得のいく説明は受けることができなかった。もっとも連邦構成主体:国家権カ機関の側面と地方自治体の側面の両面をもっていることはいなめないし、この憲章の制定時点では、市民の選挙になる機関は、市長と市ドゥーマ以外にはなかったから、国家機関であるとのみ規定するなら、自治体は存在しないことになったであろう。市ドゥーマは35人の議員からなるが、これは93年秋に大統領令によって臨時の規程がなされて以来のものである。1議員あたりの有権者数でいけば、連邦議会の国家会議の場合より少ないことなる。

さて、地区の位置づけであるが、憲章では自治体であるとの規定が明記され、市役所での聞き取りでは近く代表機関の選挙法を制定する予定であるとのことであったが、他の例のようにこれが地区議会となるのか、または住民の代表が団地自治会の代表のように地域的社会的自治の団体によって構成されることになるのか、いまだ定かではなかった。話のかぎりでは「選挙制」の機関とされているから、地区議会となる可能性が高いという印象は受けた。ここには、地方自治における力点が、公共団体としての地方自治体か住民の自治団体かのどちらに置かれるのか、またその区別と関連があまり自覚的に論じられないということともかかわっているように思われる。800万人を超える巨大都市で、住民が選挙する自治機関が市長と35人の市議会議員だけという構造には、住民自治といった契機の軽視があるとされざるをえない、過渡期の特殊な事情によるのであろうか(31)。

 

イ レニングラード州

もうひとつの事例を見ておきたい。「レニングラード州の行政・地域構造について」の州の法律とレニングラード州の「地方自治法」である(ともに96年4月制定)(32)。

レニングラード州では、地区とそのもとの行政管区を行政的地域的単位と呼び、市、町、村、郷を自治体と位置づけている。地区には、国家行政を担当する地区行政庁が組織されている。ただし、地方自治を実現する自治体のなかに、市、町、村、郷に加えて、村や郷が単一の自治体として地区に自発的に統合した場合の地区をも含めている。興味深いのは、地方自治の実現形態を定める章で、住民投票とスホート、それに代表機関をあげているが、独自の条文として代表機関を定めるところがなく、地方自治機関と地方公務員という条文のなかで定めている。代表機関の設置は予定されてはいるが、やはり議会が自治にとって決定的に重要だ

 

 

 

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