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な連邦構造を考慮することが大事だと思われる。地方自治の問題のあり様が、確立期または動揺期ともいうべき現段階の連邦構造に深く規定されている側面を無視できないからである。

現在ロシアは、西欧流の市場経済体制と立憲国家への移行をめざしている過渡的段階にあり、憲法制定後3年経過という現段階において、いまだそこへの到達を完了してはいない。そもそもヨーロッパ的世界に合流しうるかさえ問われる状況にあるとさえいえよう。それだけに、連邦構造、地方制度、地方自治のいずれの問題をとっても、ひとつの統一的なシステムとして整合的に説明することは困難である。憲法上または法制上の要請と現実との乖離は、予想を超えるものがある。現地調査もそういう事情を考慮して、地方制度と地方自治にかんする全体状況を把握することに主眼をおいた。個別の地方(構成主体)や自治体に焦点をあてた検討は、別の機会に果たされるべきものと思う。以下、可能なかぎり現在のこうした問題をめぐる現状を明らかにするよう努めたいと考えている。そこで、本論に入る前に、現状における問題の所在を明らかにするために、ふたつの「事件」を紹介しておくことにしよう。

(2)事例1:「ウドムルト共和国」問題

ロシア連邦を構成する共和国のひとつ、ウドムルト共和国において、地方自治をめぐる問題が昨年来関心を呼んでいる。「ウドムルト」問題といって、モスクワ訪問時にも数箇所でこの問題について言及された。それでは「ウドムルト」問題とは何か(4)。

問題は、昨年4月17日にウドムルト共和国の最高の代表、立法、監督機関である国家会議において、「ウドムルト共和国における国家権力機関の体系について」の法律が採択されたことに端を発する。この法律は、地方自治を農村居住区、町および都市居住区の一部にのみ認め、しかも地区、市、市内の地区の行政長官は、国家会議幹部会により上から任命され、解任され、村ソビィエトおよび町の首長は、地区行政長官(地区長)の提案により地区代議員ソビィエトによって任命され、解任されるものとしたのである。さらに、この法律は、94年4月に住民の選挙によって成立した地方自治機関の任期は98年春まであるはずにもかかわらず、事実上その存在を停止させてしまったのである。ピスコーチンは、これによってウドムルトは自らの憲法も定めていた共和国内における地方自治を事実上否定し、それを集権化した国家行政にとってかえたと評価している。

そしてこの年の10月24目、ウドムルトの国家会議幹部会は、合法的に選挙されたイジェフスク市(共和国の首都)の市長を解任するにいたった。この事件は、同じくピスコーチンによれば、ひとりウドムルト市民の権利・利益の侵害にとどまらず、ロシア全体にとってもきわめて重大な意味をもっており、自主権の旗のもとの専制に

 

 

 

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