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究で対象としている旧ソ連および東欧の体制移行諸国の地方制度改革における特徴はいかなるものであろうか。もちろん、その結論は、本調査研究が最終的に終了する時点で述べられるべきものであるが、ここでは、各国の詳細な調査を行うに先立って着目すべきと思われる点、および本年度行ったロシアとポーランドの調査から得られた点について、次章以下の調査報告の序論として述べておくことにしたい。

(1)体制移行に伴う課題

先に述べた国家統合および経済発展の要請は、ここでいう体制移行諸国のみならず、広く発展途上国についても当てはまることであるが、体制移行諸国についてとくに指摘すべきことは、発展途上国が、いうなればゼロからの国家形成をめざし、その過程で上述のような課題に遭遇しているのに対し、体制移行諸国においては、すでに長い期間にわたって高度に発展した国家形成の歴史をもち、その間に種々の主要な制度も確立していたにもかかわらず、政治体制が崩壊し、しかもそれが急速に崩壊したために、新たな体制を構築しなければならないという点である。換言すれば、そこには、ゼロからの建設ではなく、崩壊した体制の破壊に加えての新たな建設が必要とされるのである。

その際、過去の体制が高度に構築されており、その体制の下での社会の諸活動が高い水準に達していた場合には、それだけシステムも複雑で高度なものが形成されていたわけであり、それに代わる新たなシステムの構築は難しい。また、人々の期待も、当然かつての体制のそれと比べて高くなる可能性がある。要するに、旧体制の完成度が高いほど、新体制への移行は困難になるといえよう。

ある体制が確立され、長期間存続している場合、それは社会システムの細部に至る詳細なサブ・システムを形成している。そのようなサブ・システムが、次第に洗練されてきたプログラムに従って作動して、はじめてシステムの適切な状態が実現され、維持される。さらに、そのようにして形成されたシステムは、当然、それに見合った社会構造をもっており、人々の意識および行動と期待を規定する価値体系を形成している。

体制の崩壊とは、このようなシステム全体を支える体制の理念ないしイデオロギーの崩壊を意味するが、抽象的な理論としての体制理念が崩れ、諸制度の基底にあるいくつかの原理が否定されたとしても、そのことは、直ちにそれに替わる新たな理念や原理が既存の制度や意識を支配するということを意味しないし、新しい理念や原理に基づいてすぐに新制度が作られるわけでもない。そもそも従来の理念や原理の否定は、新たな具体的な理念や原理についての合意を生むわけではないのである。旧体制の破壊の後、新たに進むべき方向をめぐっての模索とそれをめぐる闘争が展

 

 

 

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