日本財団 図書館


なっているが、システムの大規模な転換を図るという点では共通した要素もあり、そこから多くの示唆を得ることが期待できよう。

本年度調査を行ったロシアおよびポーランドの地方制度については、次章以下で詳述されるが、本章では、その前提として、ここでいう地方制度をどのような観点から捉えべきるか、とくに体制移行諸国に共通した特徴はなにか、という点に焦点を当てて論じることにしたい。

 

2 地方制度と国家の発展一国家統合と経済発展

体制移行諸国のほとんどは、ポーランドのような均質的な社会から成り立っている国を除いて、異なる言語、宗教、歴史をもつ多様な民族から成り立っており、これらの民族はそれぞれ独自の文化伝統を有している。

そもそも近代における国家形成(nation building)は、このような多様な民族を統合し、それを一つの国家システムのなかに組み込むことによって、成し遂げられてきたといってよい。体制移行諸国の場合、一応、多様性を取り込んだ民主的なシステムが新たに形成されているとはいえ、まだ、その統合の程度は充分強固とはいいがたく、各民族という国内のサブ・システムは、つねにその独自性を主張し、自治を求め、ときには旧ユーゴスラビアのように分離独立を要求する。

したがって、国家の統合を図るためには、地域の独自性を超越するアイデンティティを形成するとともに、国家全体を一つのシステムに構成するような画一的な制度による集権的な統治が必要とされる。多くの途上国において、国家宗教やイデオロギーが統合のためのアイデンティティ形成のために創造され、普及されているのはそのためである。また、政権についた者が、できるだけ画一的で中央集権的な地方制度を設け、それを用いて国内の隅々までコントロールすることをめざすのも、そのような統合を図るためである。

しかし、そのような国家イデオロギーの強調、集権的な統治のあり方は地域のアイデンティティを否定し、サブ・システムとしての自立性を抑制する。それに対して、サブ・システムは当然反発し、自らの自立を求める。これは、ときに強い自治への要求となり、さらに中央からの圧迫が強い場合には、独立を求める反乱へと発展する可能性もある。

この統合への求心力のベクトルと地域の自立を求める遠心力のベクトルとのせめぎ合いの結果として、現実の地方制度は形成されているということができるが、そこでは両方向へのベクトルの不安定で微妙なバランスが考慮されているのである。

一応、国家統合がなされると、それらの国は発展をめざす。すなわち、経済的に成長し、多くの富を生み出し、国が豊かになることをめざすのである。そのためには、中央政府の政権がシステムを的確に運営することはもちろん必要であるが、システムを構成

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION