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第1章 体制移行諸国の地方制度

1 はじめに

今日では、一国の制度が、有効な統治と、そして究極的には国民福祉の向上をめざして作られていることはいうまでもない。そのために、国内の多様な状況に応じて、さまざまな制度が工夫され、それらは状況の変化に応じて絶えず再構成されているのである。そのような制度のなかでも、国内各地の事情に応じて有効な行政サービスを供給するための制度、すなわち地方制度はとくに重要である。それは、地域の人々の生活に密接に関わっているという点において、また、多様な地域社会を統合して一つの国家として成り立たせるための基本的な制度であるという点において、重要なのである。

周知のように、1989年以降、それまで世界を二分してきた一方の勢力である社会主義陣営が急速に崩壊し、社会主義体制を採用していた旧ソ連および東欧の諸国は、一斉に自由主義体制へと国家の基本制度の転換を行った。これらの体制移行諸国では、多数の基本制度の再構築のみならず、制度の基盤をなす体制の理念ないしイデオロギーの根本的な転換が行われたのである。この制度理念のレベルにおける転換は、これまでの制度が有してきた正統性を根本から問い直すことなった。このような基本制度の一つがそれらの国々における地方制度であり、当然、地方制度についても大幅な改革がすでに実施されたか、あるいは現在されつつある。本調査研究では、このような視点から、体制移行を行った旧ソ連および東欧の旧社会主義諸国における地方制度の改革の足跡を辿り、現在の地方制度および地方自治の実態を明らかにしようとするものである。

ところで、このような体制移行諸国を調査の対象として取り上げることには、2つの狙いがあるといってよい。一つは、大規模な体制の転換によって、すでに制度が確立し高度に発展している先進諸国では容易に浮上してこない、制度の根元的問題を浮き彫りにすることであり、もう一つは、急激で大規模な改革には、当然にさまざまな抵抗や障害があるが、それらがどのようなものであり、またそれらを克服するためにはいかなる策がありうるのか、といった制度改革の問題を考察する上で有益な示唆を得ることである。

これらの改革のあり様は、一口に体制移行諸国といっても、国によって大いに差がある。それはそもそもの国情の違いによるものもあれば、あるいは改革の戦略や担い手の政治的リーダーシップの違いによるものもあろう。それぞれの国の事情を探り、地方制度を規定している要素および改革の戦略を比較の視点から分析することによって、共通する地方制度の特質および改革の方向を明らかにすることができるものと考える。

ときあたかも日本では、明治期以来の集権的な地方制度を分権化するための「第3の改革」が進められている。もちろん、その前提となる社会状況も、また歴史的背景も全く異

 

 

 

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