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移転論はほとんど存在しないといってよく、代わりに、首都に存在する行政機関の一部を地方に移転することで、パリ一極集中を緩和し地方との均衡をはかろうという議論がなされてきた。
 最近では、1991年11月にクレッソン首相のもとで、約20機関、職員数にして約4,200人の地方移転計画が実行に移され、注目を集めた、1994年末までの実績によると、すでに当初の予定を上回る5,829人分のポストが地方に移され、この中には、エリート養成機関として知られている国立行政学院(ENA)のストラスブールヘの移転も含まれている。
 フランスでは失業問題が深刻であるため、行政機関の移転にともなう雇用の創出や経済的な波及効果への地方の期待は大きい。しかし、これまでのところ、数千人規模の移転では、地方経済に与える効果はそれほど大きくないと考えられ、「アナウンス効果」のレベルにとどまっているとみられている。移転先としても、パリ近郊のほか、トゥールーズ、マルセイユなどの都市が選ばれる場合が多い。今後、さらに移転を進めるには、官僚の抵抗や労働組合の反対がネックになっている。国立行政学院の移転などでは、経済効果よりも、むしろ将来のエリートのパリ中心型思考を改め、ヨーロッパ的な視野を身につけさせるという長期的な効果が期待されているようである。

【主要参考文献】

磯部力(1985)、『フランスの地方議会制度−一九八二年の改革を中心に』、東京都議会議会局奥島孝康・中村紘一編『フランスの政治』早稲田大学出版部1993年
下條美智彦『フランスの行政』早稲田大学出版部1996年
大山礼子「パリ、マルセイユ及びリヨン並びに市町村共同公施設法人の行政組織に関する1982年12月31日の法律第82−1169号」『外国の立法』127号、1983年
大山礼子「フランスの地方制度改革」『公法研究』56号、1994年
Ministere de l’Interieur,Ministere de la Fonction publique,de la Reforme de l’Etat et de la Decentralisation,Les Collectivites Locales en chiffres,edition 1995
Rene Meissel,Decentralisation et Amenagement du territoire,Le Monde editions,1995

 

 

 

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