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4.動揺の少ない船型と乗り物酔いの関係

本研究を構成する二本の柱は、乗り物酔い発症のメカニズムの解明と低動揺型船体形状の設計手法の開発であった。以下この二つの問題の関係を述べる。

 

4.1乗り物酔いの発症メカニズム

人類は永い間、乗り物酔いに悩まされてきた。多くの対策がとられてきたが、過去の研究は各専門分野の限られた範囲の見解で、総合的に乗り物酔いの発症メカニズムを解明し、それに基づく対策をとるに至らなかった。本調査研究はこの難問の解明を目標に、医学的、心理学的アプローチを試み、第2章に述べたような多くの新しい知見を得ることができた。ただし、複雑な生理、心理学的要因を3年間の結果で総合できるとは考えていない。むしろ、問題解明の方向を見出し、その端緒となる幾つかの現象を把握したに過ぎないと考えている。この観点から個々の新しい知見は第2章に譲り、ここでは今後の研究方向に参考となると思われるものだけに限定して述べる。

 

?従来の乗り物酔い研究においては搭乗者は全て健康人として扱われることが多かったが、実は精神的、身体的、あるいは遺伝的に調べると、必ずしも全ての人間を同一レベルの健康体として扱ってはならないことが明らかとなった。

?動揺刺激に暴露したときの人体の生理的反応は、動揺模擬装置のような軽微な刺激しか加えられない場合でも確実に計測できることが明らかとなった。

?乗り物酔いの発症に影響を及ぼす因子は量的にも質的にも多岐に亘るが、工学、医学、心理学等の分野で開発されてきた技術、手法を駆使することによって、良質ともに明らかにすることが可能であることが分かってきた。

?生理的な指標を得られるとの仮定から採用した血液検査を医学的見地から検討した結果は、酔いの発症が人体の肝機能の急激な低下と密接な関係があるとの仮説を立て得るところまで進展している。

?軽微な動揺刺激によっても、生体の持つ自然の免疫機能は低下することが証明された。

?酔いの発症に関して重要な意味を持つ心理的影響には、神経伝達物質であるカテコールアミン等のホルモンが関与することが明らかとなった。

?発症に影響のある生理、心理因子は当初全く不明であったので、包括的に多くの因子を列挙したが、計測結果は弱い影響因子と強い影響因子のあることを示唆していて、今後強い因子を摘出して、より簡便に計測を実施できる可能性があることを伺わせる。また発症メカニズム解明の手段である時系列的測定についても、唾液等による簡便な手段もあると思われるので、医学関係者と、より緊密で具体的な討議により、実機、実船によるフィールドテストに対処できることが期待できる。

 

以上のような結果を短期間で得られたのは単独分野だけの研究ではなく、複数分野の有機的な連携がこれを可能にしたもので、今後益々その必要性があることを示している。

 

4.2低動揺型の船体形状

一般論としては、船舶の動揺は波浪等の外乱に対する応答であるので、一義的には外乱に対する応答を少なくすればよい。具体的には、縦揺れに対しては就航航路で頻繁に遭遇する波より十分長い船長とすること、横揺れに対しては、同調を十分回避できる船幅を選定することである。しかしながら、

 

 

 

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